物を大事にし、善く生きよ。さすれば運否天賦も自然と良き方へ転ぶであろう
流石に現代では信じる者も少なくなったが、軽んじてはならない教えのひとつである
「トレーナーさん、おみくじはいかがでしょうか」
「おみくじか、正月らしくていいね……えっ!?」
新年も三が日が過ぎ、年々規模が大きくなる年始の挨拶もひと段落ついた頃。ダイイチルビーと俺は一族の管理する神社に一足遅い初詣に来ていた
他に参拝客が一人も居ない事にも驚いたが、それ以上に驚かされたのはルビーの発言だ
「……どうかなさいましたか?」
「いや、ルビーが運試しなんて珍しいなって」
「私には不要です。あちらにございますので、終わりましたらお戻りください」
「ありがたい申し出だけど、せっかくだしルビーも……行っちゃった」
以前福引きをやりたいとゴネたことを根に持っているのか、はたまた純粋な厚意なのか
ともかくルビーを待たせるのは良くない。俺は大急ぎでおみくじ箱から1枚だけ残ったくじを引いた
「最後の1枚か。残り物に福があるといいな……いざ!」
「よくぞ引き当てました人の子よ。私こそはおみくじの神、ダイキチルビー」
「ダイキチルビー!?」
一族の会合で聞いたことがある。確かこの神社に祀られる神様の1柱であったはずだ
巫女装束にダルマを模した耳飾り、しいたけのごとく輝く眼光といったマチカネフクキタルめいた奇天烈な恰好を除けばその姿はルビーそのものだが、神の姿というのは得てして見る者の価値観に左右されるという。俺は混乱しつつもひとまず納得した
「も、申し訳ございません。神仏に御目に掛かるのは初めてで、とんだご無礼を」
「よいのです。華麗なる一族への貢献を讃え、神託を授けましょう」
さすが神様、懐も深い。俺はその威光に自然と平身低頭していた
ダイキチルビーはいつの間にか手にしていたおみくじを開き、その中身を読み上げた
「まず願事……努力を続ければ叶うでしょう」
「ありがとうございます!」
「次に商売……契約者との対話を充実させることが肝要です」
「心に留めておきます!」
「そして健康……努力は認めますが、睡眠は十分にとりなさい」
「具体的なご指導痛み入ります!」
授かった神託は日頃からルビーに忠告されている事に酷似していたが、それだけに説得力があった
「あの……ところで縁談は……」
「……その気があればすぐにでも立ち上がるでしょう」
「ああ、ありがとうございます!仕事漬けの俺の人生にも新たな出会いが……!」
「ありません。新たな出会いは皆無です。……それでは今年も励むように」
こちらも別れの挨拶を返そうとした次の瞬間、ダイキチルビーが現れた時と同様の閃光が迸った
僅か数秒。目の眩みが治る頃にはもうその姿はなく、石畳を抉るような蹄鉄の跡だけが遺されていた
「……ってことがあったんだ」
「それは新春から喜ばしいことと存じます」
初詣からの帰りの車中。神様に会ったなどという荒唐無稽な話をルビーは肯定的に受け止めていた
願掛けはおろか運試しすら信じない彼女にしては珍しい事である。単に呆れているだけという可能性もあるが
「ありがとう。ルビーは信じるかい?こういう神託とか」
「トレーナーさんもご存じのはずですが、私の言葉は一族の言葉。根拠無きものを信じるという選択肢はございません。ですが……」
「……いえ。トレーナーさん、本年もご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。今年もどうぞよろしくお願いいたします」
神は日頃より人の行いを見ており、善き者に味方するものと信じられてきた
言い換えればその過程で何らかの力が影響したとしても、それを知らぬ者にとっては神の御業に等しいということである
時の権力者が持つ神通力とはそういうものなのかもしれない。俺がそれに気付いたのは数年後、妻のクローゼットで巫女装束を見つけた時であった
えっうん
大胸かと思った
シラオキさまがキテレツな格好してるんスけどいいんスかこれで
(ダイマックスルビーになる私…)
(一応Dカップある私...)
ない
ない
ありません
(買い出しの帰りに福引きがやりたすぎてルビーに待っててもらうルビトレ)
着せたくなるのが世の定め