公園のベンチで友人を待ちながら、マチカネタンホイザは小さな声で呟いた。
視線の先には、かつて彼女のトレーナーだった男が居た。その傍らに居るウマ娘ははしゃぎながら彼の手を引き、走り方を教えてもらおうとせがんでいる。
その求めに応える彼の横顔は、どこか生き生きとしているように見えた。
「…………」
その様子を眺めるタンホイザは、普段よりもほんの少しだけ陰のある微笑みを浮かべていた。
「お待たせー」
「おっ、来た来た! じゃ行こっか!」
やがてトイレから戻ってきた友人に声をかけられると、彼女はいつも通りの明るい笑顔を向けて立ち上がった。友人と仲良く会話しながら、楽しそうに公園を後にする。
その途中で一度振り返り、元トレーナーに向けて小さく手を振ったが、彼がそれに気付くことはなかった。
「ただいまー。今日はありがとね、おかげさまで楽しい休日でした!」
友人と別れたタンホイザは、待ち合わせ場所に停められた自家用車に乗り込みながら言った。その運転席から、彼女のトレーナーだった男が返事をする。
「おかえりタンホイザ。羽伸ばせたなら良かったよ」
「あの子の娘さんまで預かってもらっちゃって、大変だったでしょ? ウマ娘ってあの歳でも体力あるし」
「いや、こっちも楽しかったよ。うちのとも仲良く遊んでたし」
「へー、さすが現役トレーナーさんだ。鍛えてるねぇ。……ちびちゃん達は流石に疲れちゃったかな? んふ」
後部座席で寝息を立てる子供達を振り返り、タンホイザはくすくすと笑った。ふと、その笑顔が途切れる。
「え? なんで?」
「いや〜……今日娘さんの相手してるとき、なんか楽しそうだったなー、って思って」
「んー……やっぱりトレーナーだからかな、ウマ娘に教えるのは楽しいけどね。でも、娘が欲しいとは思わないかなぁ」
「そうなの? ……どして?」
「もし自分の娘がレースに出たいって言ったら、親は一番のファンになってあげるべきだと思うんだ。実際娘が居る同僚はそんな感じだし……」
運転席の男は少し照れくさそうに笑いながら、隣のタンホイザを見つめて言った。
「……でも、俺は上手く推し変できる自信がないからさ」
「んふふ……はて? その推し、随分前に引退したような〜?」
「俺にとってはいつまでも現役なんだよ。悪いか?」
「ううん、一途なのは良いと思いますよ〜。ひひっ」
「……ふふ。じゃ、そろそろ帰ろうか」
「ほーい」
エンジンがかかり、自動車は彼らの家へ向けて進み始めた。子供達を起こさないように、緩やかな速度で。
終
来ねえ!
この日なまぴょいするのはわかる
あると思います