ゆえに競技者の体格差による優劣はない、なんていうのは建て前だ
視界が低ければ見通しが悪いだけでなく高速で大地を抉る足が眼前を掠める恐怖もある。背が低い者は絶対的に不利……本当にそうなのだろうか?
『それを確かめるため今日はこれで試してみよう』
「これがオトナの景色……なんだか新鮮な気分です!」
ここはVRウマレーター内の仮想空間。環境設定は現実空間とほぼ同じだ
中にいるのは俺の担当ウマ娘のニシノフラワーだが、そのアバターは大人に成長した姿になっている
AIの調整ミスで体操着だけ子供サイズになってしまったが、そこにはあえて触れまい
『フラワーから見れば背の高い子が有利だけど、逆に背が高いからこそ苦手なものもあるはずだ』
「そうですよね。それを見つけて磨いていけば、きっと私だけの武器に……っと!」
『フラワー!?』
突然、フラワーは何もないところで転倒……正確には地面から弾かれた
気合を入れようと踏ん張る動作に対し、VRウマレーターが大人の体格相応の反発力を返したためである
「へ、平気です!すぐに慣れて……」
「それもそうかも……自分と違う体って難しいですね」
『変な癖を付けないよう今回は本格的に走ったりはナシだ。となると用意したゴーストは使えなから……』
精神は肉体に引っ張られるという話もあるし、ここは危険を冒す場面ではない
せめて体格差だけでも体感してもらうため俺はAIを利用して子供型アバターを作成。仮想空間にダイヴした
「お手間を取らせてすみません、トレーナーさん……あれ?今、何か……」
「おっとと……うわっ、声まで高い。確かにこれは感覚が狂うかも」
「えっ……えっ!?あの、あなたは」
「トレーナーだよ。急造モデルで悪いね」
眼の前に飛び込んできたのはいつもより低い視界の世界と息を呑むほど美しいウマ娘の姿
身内贔屓がすぎるかもしれないが大人になったフラワーを見上げるのはそれ程の衝撃だった
俺はというとネイビーブルーのTシャツにポケットのボタンが取れた半ズボン、靴紐のほどけた靴と一般的な少年の姿だ
「…………」
「この状態なら結構な身長差があるな。フラワー、なるべく俺に近付いた状態でペースを合わせて並走を……聞いてる?」
「かわ……何だって?」
沈んだ面持ちから一転、目を輝かせたフラワーは手を打って歓びを露わにした
スーパークリーク等もよくやる動作でもあるが、上背がある相手にやられると「いただきます」の合図に見えなくもない
「歳の差は埋まらないと思って諦めてましたけど、こんなところで叶うなんて……」
「いや、便宜的に見た目を変えただけで埋まったわけでは」
「それよりなるべくトレーナー君に近付くんでしたっけ。手を繋ぎましょうか?それとも腕を組んで」
恐れていた事態が起きてしまった。フラワーは今、精神が肉体に引っ張られている状態にある
この見た目では説得力がないがこれでも中身は立派な大人、毅然とした態度で彼女の心の平衡を取り戻さねば
「フラワー!思い出すんだ、君は……」
「お姉ちゃんは、でしょう?急に大きな声を出したら女の子はびっくりしちゃいますよ」
「ご、ごめんなさい。フラワー……お姉ちゃん」
俺が悪いのだろうか……?でもフラワーお姉ちゃんも怒ってたし、ぼくが悪いのかも……
「素直に謝れて偉いです。でも悪いことは悪いことなので……罰としてだっこの刑です!」
「だっこの刑!?」
心の中のぼくが囁いた。捕まったら新しい生に目覚める、楽になれと
どちらが正しいのか自分にはもう分からない。だからただ衝動の赴くままに駆け出した
「や、やだよー!」
「……ふふっ。こんなふうになってもまだトレーニングのことは忘れていないんですね……
ほら、もっと急がないと捕まえちゃいますよ!トレーナーくん!」
必死に逃げたもののやはり人とウマ娘、子供と大人の差は歴然
汚れて丸めたハンカチや片方なくした手袋を投げるなどの妨害も虚しく捕まり……そこから先を俺は覚えていない
VRウマレーターのトレーニングでは残念ながら小さいが故の武器は見つからなかったが、フラワーは新たな才能を開花
どんなに大きな相手でも包容力を持って受け入れる心の強さを手に入れ、後のレースでも結果を残した
一方でフラワーの暴走に危険を感じた俺はVRウマレーターから大人フラワーのアバターを削除。新たに購入した個人用VRシミュレーターにこれを移した
>一方でフラワーの暴走に危険を感じた俺はVRウマレーターから大人フラワーのアバターを削除。新たに購入した個人用VRシミュレーターにこれを移した
消せや!
前もって作っておいたモデルが急に没にされてなるはやでショタアバター作ってとか言われたらこうもなろう
フラワーの憧れの人だからな…
でもそういうところも好きですよ
キャンディーズのレス
でも世の中にはもっと広瀬香美の歌詞みたいな女になろうよみたいな言葉もあるし…
>AIの調整ミスで体操着だけ子供サイズになってしまったが、そこにはあえて触れまい
これ本当にミスか?