そして残酷であればあるほど美味しくなる
魚は生きたまま神経を抜く事で鮮度が長く保たれ、動物の肉は何度も何度も叩けばとても柔らかくなる
最初はそれに抵抗を覚えたがより美味しくなった料理を味わう内にその想いは薄まり、最後には消えていった
──料理は我慢が大事で、待つ事は重要な調理法だ
米が炊けるまで蓋を開けてはいけない
パンは生地を放置して発酵させなければ美味しくならない
カレーも煮物も寝かせれば寝かせられるほどいい
最初はその待ち時間がとても退屈で、早くできないかと待ちきれず辛かったけど、完成した料理の美味しさに待つことを楽しめるようになった
つまり料理に大事なのは愛情なのだ
相手のためにちゃんと下拵えをして、ちゃんとレシピ通りの分量と手順で調理する手間隙こそが愛情なのだというのが私の出した結論だった
男女の平均寿命差は6年くらいあるらしい
そんな話が学園で流行り始めたのはいつからだっただろうか
担当の事は細かく気配ってくれるのに自分達の生活は適当に見えるトレーナーが多い事もあってなるべく長生きして貰おうとトレーナーの世話を焼こうとする生徒は多くて私もその一人
『そんな事をしなくても君はトレーナーと寿命でお別れした後でもお友達のようにトレーナーが見えるだろうカーフェー?』
レシピを読む私をニヤニヤしながら見つめそんな事を言ってきたタキオンさん
彼女にとっては冗談のつもりなのだろうが不快なので一発叩いておいた
でも最後に複数の心残りがあるとそうなった後の言動は不安定になるし脳や身体が老いていればそうなった後も意識は劣化し老いたままだ
そんなトレーナーさんを私は見たくない
そしてもし、もしもだか家族や恋人のような私より優先される心残りがあって死後にトレーナーさんがそちらに憑いてしまったらきっと私は耐えきれなくなる
だからまだ駄目だ
時間は私の敵だが焦ってはいけない
そしていつの日かトレーナーさんが私だけを想ってくれて、私の事が唯一の心残りになったその時こそこの料理を完成させる時だ
その時はお友達も手伝ってくれるらしいしトレーナーの反応からその日はそう遠くない事だろうと私は確信している
なるべく苦しめないよう道具もきちんと用意した
強い心残りがあって意識も若いままならトレーナーさんもお友達のようにしっかりした自我を持てるはずだ
きっとその時私は沢山泣くだろうしトレーナーさんにとっても辛い事になるだろうがもう覚悟は決まっている
それこそが愛なのだから
マンハッタンカフェは静かに笑った
おわり
カフェとカフェトレは死後も分けられない…
全う出来るかなぁ!?