「へっ!?」
担当ウマ娘のナイスネイチャと一緒に、食事をとっていた時のこと。
カウンターの隣に座る彼女から突然そう言われ、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。反射的に左耳にかけていた髪を下ろしたところで、それが少し過剰な反応だったことに気が付く。
ネイチャは少し驚いたような顔で私を見つめていた。
きっと何か意図があったわけではなく、たまたま気がついたから話題にしてみただけのことだったのだろう。私はなるべく平静を装いながら答える。
「……別に、ただのファッションだけど。というか、ウマ娘もだいたいそうじゃない?」
「あー、言われてみれば確かに。耳飾りはアシメの子が多いかも」
「いやぁ、どうだろ。別に流行りってわけじゃないけど……ウマ娘の本能、みたいな感じなのかな?」
「へー、そういうものなんだ」
ネイチャの表情が和らいだのを見て、私は少しほっとした。上手く話を逸らせたようだ。
その後もネイチャと他愛のない会話を続けながら、私はラーメンの残りに口を付けた。
その日の夜、私は顔を洗いながらふと左耳のピアスに目をやった。仕事中は小さなガラス製のシークレットピアスだから気付かれないと思っていたが、ネイチャもなかなか目ざといものだ。
「うーん……」
私は鏡を見つめて少し考えた後、ピアスを外して引き出しに仕舞い込んだ。
トレーナー室で仕事をしていると、いつものようにネイチャが訪ねてきた。
「お邪魔しまーす……」
「あ、お疲れ様」
その日のネイチャはどこかそわそわしているようだった。きっと何か用があるのだろう。彼女が話を切り出しやすいように、私は仕事を中断してパソコンを閉じる。
すると思った通り、ネイチャはひとつ咳払いをしてから話しかけてきた。
「あ、あのさ。覚え違いじゃなければさ……今日、誕生日だよね?」
「えっ? ……あ、ほんとだ。完全に忘れてた」
「へへ、ありがとうね」
「……それでね。その……ほんとに大したものじゃないんだけど。一応、プレゼントなど用意してまして……」
「え! 嬉しい! ありがとー!」
「いや! あんま期待しないでほしいんだけど……! ……でも、ちゃんと選んだからさ。気に入るといいな、なんて……はいっ」
ネイチャが差し出してきた小さな包みを受け取り、なるべく包装紙を破らないよう丁寧に開ける。
中に入っていたのは……片耳用のピアスだった。金メッキのシンプルな台座に赤と緑のガラスが嵌められていて、カラフルなわりに落ち着いた印象だ。
「あはは……どうもです。ねえ、良かったら試しに着けてみてくれる?」
「え……あ、うん」
そう言われて、少しドキッとする。この前外してから結構時間が経っているが、大丈夫だろうか。とはいえ断るのも何か躊躇われたので、私は恐る恐るピアスを左耳に通してみた。
「いっ……」
案の定、鈍い痛みが耳に走る。
「えっ、大丈夫? ……血、滲んじゃってる」
「あっ……だ、大丈夫だよ。ごめんね」
「……ピアス、外してたの? ……アタシに見られたから……?」
「え……」
なぜか、胸のあたりがぎゅっとなる。
……確かにそうだ。ネイチャに見られたから外したんだ。でもその理由を上手く説明することはたぶんできないし、どう話しても彼女を傷付けるような予感がした。
言葉に詰まっていると、ネイチャの顔が私から少し離れた。だけど俯いていて、その表情はよく見えない。
「……ごめん。もし迷惑だったら……」
「そんなことないよ! すごく嬉しいし、えっと……着けるの忘れちゃってただけだから!」
「そう? ……良かった」
「……へ」
急に差し出されたネイチャの手が、私の左頬に触れる。
突然のことにびっくりして固まっていると、彼女は私の髪を丁寧によけて、耳をあらわにした。
「うん、似合ってるじゃん。……かわいいよ」
そのはにかんだ笑顔も、ちょっとうわずった声色も、私がよく知っているネイチャそのものだったけど。
私の耳をじっと見ている目は、なんだかいつものネイチャじゃないような気がして。
ほんの少しだけ、首筋がぞくっとした。
「あはは、どういたしまして。……って、よく考えたら仕事中だったよね! 邪魔しちゃってごめん」
「ううん、気にしないで。……すぐ終わらせるから、ちょっと待っててね」
「うん。せっかく誕生日なんだし、終わったらどっか食べに行かない?」
「良いねー」
私は嬉しそうに尻尾を振りながらソファに腰掛けるネイチャを横目に見つつ、ノートパソコンを開いた。暗い画面に映る自分の顔を見て、確かに結構似合ってるな……とぼんやり考える。
……もう仕事中でも外せないし、髪で隠すこともできないな。でも、まあ、別に良いか。
ネイチャが笑っていてくれることが、私にとって一番大事なんだから。
実は、海外留学をしていた頃にウマ娘の恋人が居たが、相手の束縛が強かったことが原因で別れたらしい。
ナイスネイチャのヒミツ
実は、ヒトの女性が左耳だけピアスを着けることの意味など最初から知っている。
>ナイスネイチャのヒミツ
>実は、ヒトの女性が左耳だけピアスを着けることの意味など最初から知っている。
急にギア上げてきたもん
実は、ピアスは元カノの影響で着け始めたもの。
「色々あって別れたけど別に嫌いになったってわけじゃなかったし、思い出みたいな感じでなんとなく着け続けてた」らしい。
ネイチャはそういう確認するタイプの子だ
実は、プレゼントしたピアスは元々両耳用のものを片方だけ包んで渡している。
もう片方はネイチャが持っていて、一人で居るときに時々眺めているらしい。
縛ってくださいって言ってるようなもんだよ
トレーナーが出張でさみしくなるとピアスの片割れを握りしめて寝るネイチャいいよね