メガドリームプロジェクターのモニターとしての期限を迎え、ゴドルフィンバルブはサトノグループへ帰ることとなった。
朝起きてゴーグルとイヤホンを付けてから一日が始まることはもうなく、一人の部屋とはこんなにも静かなのかと感傷に浸る。
……そう言えば、彼女が回収されていく間際『近いうちにまた逢える』と言っていたがどういう意味だったのだろう。
まさかまた脱走してくる気なのだろうか……。VRウマレーターで逢える、という意味であってほしいが。
「みんなトレーニングお疲れ様、水分補給とストレッチを忘れずにね」
────いた……。
あまりにも普段通りに振る舞っていたので幻覚か何かだと思い、頬をつねったがしっかり痛い。
解散の号令を受けて散り散りになっていくウマ娘達の間を縫って彼女の元へ辿り着くとホログラムと目が合った。
"なんで……"
「傾聴ッ!私が代わって説明しよう!」
"理事長!?"
曰く、彼女の指導を受けたウマ娘達からの嘆願によりゴドルフィンバルブを教員兼教材として採用したらしい。(費用はやはり私財からだった)
メガドリームサポーターはVRウマレーターを使用を前提としているため、一度に指導を受けられる人数が限られていること。
加えて使用しているのは担当トレーナーのいるウマ娘ばかりで、新入生や未だ担当トレーナーのいない子達にとっては使用するのに気後れしてしまうとのことだった。
そんな最中に彼女がまさしく女神のように降誕したことで需要が初めて満たされたウマ娘も多かった。
嘆願の声の中には教員からのものもあり、その価値を認められ理事長自らサトノグループに話を持ち込み、今に至るようだ。
「たづなにはまた勝手をと咎められたが、これもウマ娘の未来の為!彼女も助け船を出してくれたぞ!」
「うふふ、私もまだやりたいことがあったから渡りに船だったわ」
それにしてもあのたづなさんを説き伏せるとは……やはり只者ではない。当の本人は理事長の頭の上にいるネコをじっと観察しているが。
「それでは私は仕事に戻るぞ!さらばだ!」
「あ……お疲れ様です〜」
多忙な中説明の為に足を運んでくれたことに感謝しながら背中を見送る。隣で名残惜しそうにボソリと「ネコちゃん……」と呟くのが聞こえた。
ゴドルフィンバルブに向き直ると彼女は短く咳払いをして話し始める。
「えーそういうことで戻ってきました。イエーイ」
"おかえりなさい"
「ただいま。ん〜疲れたわ〜、この後暇だけど疲れててなにも考えられないわ〜」
「どこかに気分転換に付き合ってくれる優しい人はいないかしらね〜」
ともあれ女神のご所望を断るわけにもいかない、今の彼女を連れていくとしたら……。
「まぁまぁまぁまぁまあ!!」
「ニャオー」「ミャア」
街にあるネコカフェに行くことにした。大人一人と機械一台が入店してきて店員が困惑していたが事情を説明して入店を快諾してもらえてよかった。
足元から天井近くのキャットウォークまで所狭しとネコ、ネコ、ネコ……、ネコが好きと言っていた彼女ならこのふれあいの場は喜ばずにはいられないだろう。
実際カフェの前に着いてからテンションが目に見えて上がっているのでもはや答えは聞くまでもない。
「動画で見てから一度は足を運んでみたかったの、はぁかわいい……」
"ご満悦ですね"
「こんないっぱいのネコちゃんに囲まれて平静でいられるわけないじゃない!もっと近くで観察を……って」
"逃げちゃいますね……"
愛しの存在から避けられて落ち込んでしまうかと思ったが彼女はすぐに策を用意した。
「トレーナーさん!これを括り付けてちょうだい!」
"ネコの玩具ですか"
彼女が指差したのは釣り竿状の玩具、どうやら竿の先端に付いたヒモと羽根の部分を移植するつもりらしい。
取り外し可能な金具で付けられていたのですぐ外し、プロジェクターの引っ掛けられそうな部分に適当に繋いでやる。
「さぁいくわよ、ついてきてネコちゃん!」
「「「!」」」
ふと周りを見ると、店内で手すきだったネコ達がギラギラとした視線を彼女に向けている。なんだか不穏なような……。
「「「「「ニャーーーー!」」」」」
「えっ!?きゃあーー!!」
不穏な空気を感じた時には既に彼女はネコに覆われてしまっていた!滅多なことでは壊されそうにないだろうが流石に止めに入らねば!
機械自体を玩具と認識したネコ達は半狂乱状態、なんとか宥めながら一匹ずつ引き剥がしていく。
前足でがっしりと機械を掴み後ろ足でガシガシと蹴りを入れている最後のネコを引き剥がして彼女を救出した。
"大丈夫ですか!"
「……うふっ、うふふふふふふふふふふ……!」
"壊れた!?"
「最高のもふもふ体験だったわ……!この調子でふれあっていきましょう!」
その後、どうすればネコが寄ってくるか分かった彼女は思う存分ふれあうことが出来たようだった。
自分で撮る以外にも頼まれてARゴーグルで写真や動画を撮ったりした。
「うふふふ、お腹、肉球、しっぽ……いっぱい撮れたわ、二人にも自慢できそうね」
"ちょっと疲れました……"
帰り道、ゴドルフィンバルブは撮ったネコのアーカイブを満足そうに閲覧している。
テンションの振り切れた彼女は機械のポテンシャルを如何なく発揮していた。今日はウマ娘と遊ぶより疲れたかもしれない……。
今後はゴドルフィンバルブとネコという組み合わせには注意しないと。
「ねえトレーナーさん、今日は最高の一日だったわ。ありがとう」
「もしまた機会があったら連れていってくれる?今度は別のお店に行ってみたいわ。もちろん、普通のデートもね」
"付き合いますよ、何度でも"
「!うふふ、明日もお仕事頑張れそうだわ!」
トレーナーを続ける限り、この関係はまだまだ続きそうだ──。
スピードがさらなる高みを目指し13上がった
賢さがさらなる高みを目指し22上がった
スキルPtが45上がった
ゴドルフィンバルブに幸あれ
良かったよ
よかったぜ