「──────というわけでエルとトレーナーさんは仲良く同じ布団で眠りに付いたのデス!」
「黙って聞いてたけど…それ誘惑して同衾しただけだよね?」
「いやらしいわね…」
「へんたーい。へんたいエルちゃん」
「違いマース!そういう意識は少しも無かったデス!」
一つのお題を決めた上でそれぞれが最も当てはまると思う答えを数日後に持ち寄って発表し合う。黄金世代と呼ばれた彼女たち五人のウマ娘は、こういったミーティングを定期的に行っていた。
ミーティングに勝利した一人にはプラス1点、最も駄目な意見を持ってきた一人にはマイナス1点が課せられるシステムで、今の時点での合計点ではエルコンドルパサーが1位、キングヘイローがビリであった。
そう、本来は意見を持ち寄るだけなのだが────
「確かにトレーナーさんはそりゃ嬉しいだろうけど…反則っぽいよねそれ」
今回の対決は議題が議題だけに、各々が思う答えを実行してくる流れになってしまっていた。
遊びでしかなかったミーティングごっこにしては一石を投じた感のある本格的な議題であった。いつもなら議題を決めてから長くても3日でミーティングに移るのだが、今回は1週間の間に実際に各々のトレーナーに対して奉仕し、その結果を発表するという運びになった。
「じゃあ次はグラスちゃんだね!」
「はい。私の行った事も…ある意味エルのそれと近く、ある意味正反対とも言えますね」
「なにそれ」
「期待を唆る前口上ね」
「もったいぶらずに報告するデース」
「それでは…まず、最近"トレーナー狩り"が活発になっているのは知ってますよね?」
トレセン学園に勤務するトレーナーは選ばれた選りすぐりのエリートである。ルックスもイケてる。当然良からぬ野良ウマ娘たちに目をつけられ狩られるなんて事は珍しくもない。グラスワンダーのトレーナーなんかは、最近残業続きで帰路に着くのが00時を回ることもしばしばだ。そんな彼を付け狙う悪しきウマ娘たちを密かに、当人には悟らせないように、音も無く制圧する。
「え?トレーナーさんに内緒でやってるの」とセイウンスカイがおかしな物を見る目で尋ねる。
────自らの信じた行いに対して見返りを求めず、仕える相手には余計な心配をかけさせない。それこそが───────
「真の武士の在るべき姿なのです」
「うーん…なんかそれって変っていうか…」
「グラスちゃんかっこいい!」
「流石我が宿命のライバルデース!」
「警察に電話してはどうかしら?」
賛否両論の結果であった。結局その日のミーティングは、キングヘイローの「あえて何もせずに1日同じ部屋で過ごす」が勝利の論文に選ばれ、特別ルールによる3点追加で一気に逆転2位へと躍り出たのであった。尚、これも特別ルールで、次点に選ばれたグラスワンダーはプラス1点を与えられ総合1位に返り咲く事となった。
「グラスちゃんそれおニューの薙刀!?可愛い〜!」
「えへへ…トレーナーさんに買って貰ったんですよ♪最近グラス頑張ってるからって」
「いいなー私も釣竿ねだろうかな…」
「そろそろ開演時間よ」
「劇場内に薙刀は持ち込めないからロッカーの横に置いていこうね」
しかしその約100分後、映画を観終わった後の事であった。
「あー面白かった…グラスちゃん?なんか薙刀変じゃない?」
「刃が無くなってる!?」
グラスワンダーの薙刀からは刃だけが失われ、代わりに置き手紙が張り付けられていた。
グランプリに勝ったくらいで調子に乗ってんじゃないよ
アンタの大事な薙刀は預かった
返してほしけりゃ〇〇公園まで一人で来な
「汚い字ね」
「どうする?グラスちゃん。警察呼ぶ?」
「ちょっと行ってきます」
「ケ!?」
グラスワンダーの顔には鬼が宿っていた。
「薙刀一本のために危険を犯す事無いわよ」
「何言ってるんですか!!!!2個ですよ!両端に1個ずつの刃!2つしか無いのに!!!!!2個とも持って行きやがった!!!!!!!許せませんよ!!!!!!!!」
皆の必死の説得もグラスワンダーには届かなかった。
「おっ本当に一人で来やがった」
「本当にこいつなのか?モロそうだぜ」
「薙刀返してください」
「は?舐めてん」
次の瞬間、グラスワンダーの拳が的確にチンピラウマ娘の顎を捉えた。
「薙刀返してください」
「テメー…こっちは何人いると…」
「武器もあんだぞ」
「ああそうですか。薙刀返してください」
グラスワンダーの拳と脚が飛び交い3人のウマ娘が瞬く間に地に伏した。
「ち、畜生…」
残り一人のチンピラにグラスが襲い掛かろうとした刹那。背後から別のウマ娘がスタンガンを持って襲いかかった。
────伏兵か!?不覚─────
───────5秒ほどしてからグラスワンダーが目を開けると、周りには合計10人はあろうかというウマ娘が倒れており、振り向くと見知った顔が見えた。
「トレーナーさん!?」
話を聞くと、自分がチンピラウマ娘たちに狙われている事も、それをグラスワンダーが処理している事も全て知っていたらしい。
「……ということはグラスはマイナス点では?」
「奉仕するどころか思いっきりバレバレで気を使わせて、あまつさえ助けられてちゃね〜」
「スカイさん、言い過ぎよ」
特別ルールによるマイナス10点を与えられたグラスワンダーは、ミーティング総合順位最下位に転落してしまった。
「……腹を切らせてください……!!」
化け物か?
デコってるとか…
>「警察に電話してはどうかしら?」
終始普通のキングに吹く
トレーナーさん「だからグラスは可愛いんです」って言ってたから!
介錯をお願いします……!