「恥ずかしいなら無理しなくてもいいんだぞ」
「いえ!したくてしてる……ので……ぴょん」次第に元気をなくしていく彼女を横目に、夕食をテーブルに並べていく。彼女の顔はひと目で分かるほど真っ赤に染まっており、風呂上がりでなければ熱があるのではと心配になるほどだ。
「大体、夏には暑くないのか? そのパジャマ」
「うっ……それはそうなんですけど。でもほら、ふわふわで可愛いじゃないですか!」
「だからって汗かいて風邪でも引かれたら困るんだよ」
トップロードはあからさまに不満を見せるように頬を膨らませた。可愛らしいがこちらとしては体調最優先。彼女はアスリートで、自分は指導者なのだ。
「まったく。ほら、ご飯できたから髪を乾かしたら食べよう」
「トレーナーさん、ドライヤーで乾かすの手伝ってもらっていいですか? 私一人だと時間かかるので」
「いや……んー…………分かったよ」
「こんな事するのはトップロードが初めてだよ。って痛い痛い! 尻尾当たってる!」
やけにドスの効いた声で聞いてくるので正直に答えると、今度はムチのようにしなる尻尾の洗礼。どうもさっきの回答がよほど嬉しかったらしい。
「そうですか……私が初めて……」
「ほら、ドライヤーかけるぞ」
彼女のしっとりと水分を含んだ髪先に熱風を当てると、少しずつ金色の毛先が本来のしなやかさを取り戻していく。何度見てもきれいな髪色だと思ってしまう。現代ではセクハラに当たるのだろうかと心配したが、そもそもいつの時代の基準だろうが教え子を自宅に上げている時点でアウトだと思い、気にしないことにした。
「あっ……この肉じゃがすごい! 美味しくて、えーっと……トレーナーさんの味がします!」
「無理して食レポしなくていいぞ。美味しいって言ってくれるだけで十分だ」
いつも通り語彙力を失いながらも次々に料理を口に入れていく彼女を見ると、調理の苦労も報われる思いだ。しかし、この量をあっという間に平らげる勢いなウマ娘の食欲は恐ろしいものがある。
「トレーナーさん! おかわりお願いします!」
「あぁ、ごめん。作った分は今ので最後なんだ。足りないようなら俺の分食べる?」
「あっ……その、ないなら大丈夫です! お腹いっぱいなので!」
「おかわりしたいんじゃなかったの……?」
再び顔を赤くして首を横に振るトップロードに「自分はもうお腹いっぱいだから」と言って皿を渡す。事実、彼女に合わせて若干自分の量も増やしていたので嘘ではなかった。
「変なこと言ってないで食べなよ。作った料理を美味しそうに食べてくれる子は好印象だぞ」
「……! じゃあ、いただきます!」「すごく」と「美味しい」を何度も繰り返しながら彼女は料理をすべて食べきった。満面の笑顔で皿洗いを手伝う彼女を見ると、作ってよかったと思えるものだ。
「それにしたって、なんで俺の家なんだ? せっかくなら温泉旅館なり、高級ホテルにすればよかったじゃないか」
「むー……トレーナーさん、それ本気で言ってますか?」
食事を終えていつの間にか再びうさぎのパジャマを着たトップロードがジト目でこちらを睨みつける。
「"トレーナーさんと親睦を深める"なんだからこれでいいんですよ!」
「だけどなぁ……ここじゃ狭いし面白くもなんともないだろう」
「そんな事ないですよ! トレーナーさんの家、毎日でも来たいです!」
「そりゃまずいんだよ……まぁ、トップロードがいいならいいけどさ」
「いやいやいや……そりゃ流石に……」
二人でソファーに座り映画を見終えたあと、歯磨きを終えたばかりの学級委員長の口から飛び出たのは爆弾発言。
「せっかく来たんだからベッドで寝たいです!」
「俺がソファーで寝るから大丈夫だって」
「このベッドなら二人で寝れます!それにほら、私、ふわふわです!」
三度顔を赤くしながらも彼女は両手を広げて言う。つまりなんだ。教え子を抱きまくらにして寝ろというのか。
「いや、やっぱり俺はソファーで……」
「いや、まずいって……離して……」
「えへへ……トレーナーさん、すごく暖かくて……いい匂いで……」
「トップロード? おーい、委員長ー?」
ばたばたと手足を動かそうとしても、降参を示すために彼女の背中を何度も叩いても悲しいかな、ウマ娘のパワーには敵わない。一人先に夢の世界に飛び立ったと思われるトップロードの腕の力は緩む様子がなく、仕方なくこちらも抱きまくらにされながら寝るしかないようだった。
事前に彼女と話し合った今夜の作戦会議。作戦通りなら、彼女もふわふわのパジャマを着てトレーナーと同じベッドに入っているはずである。
次の目標は頻度を増やすこと……アヤベさんと決めたフローチャートを頭に浮かべながら、改めてトレーナーさんを強く抱きしめて、眠りにつくのだった。
パジャマ、良かったですね
どうして未実装なんですか……どうして……
そういうことにしたい
あのぴょんぴょんポーズは自覚あるよ
やっぱり委員長の肩書の子ってさぁ…
アヤベさんはフローチャート全部ガバってそう
ナリタで
覇王世代だぞ
おそろしいねぇ…
そっから続けるのは無茶だアヤベさん!