ちまちまと餌をつけながら、ちょっと弱気なつぶやき
桜も咲いて春の陽気が増えてきた昨今。けどまだ海辺の風は少し冷たい
ちゃんと着込んだモコモコセイちゃんは今日も元気に釣りに来ています
でも、今日来ているのは堤防でも桟橋でも、ましてや船なんかでもなくて
「久しぶりの大遠投、まだ勘が戻らないなぁ」」
穏やかな波の打ち寄せる、砂浜
今日はサーフ、つまりこの砂浜が私の釣り場になる
脇にはクーラーボックス、それと竿を立てかけるためのロッドホルダー。今日はあちこち動き回ることが予想されるので、できるだけ軽装備で。もちろん安全面はライフジャケットにグローブなどバッチリと
「これ投げて反応無いようなら、ちょっと移動しようかな」
うねうね、うねうね。まだ動いてる、新鮮な餌
はいそうです。ジャリメ、いわゆる虫エサというやつです。今日一人で来ることになった原因がこれだったりもします
用事で来れなかったフラワーはともかく、キングとかもうこんなの見ただけで……まあお察しください
虫エサは本当によく釣れるからとても便利なんだけど、オキアミとかみたいにみんながみんな触れるわけじゃないのが難点
だけど今日釣りたいお魚には、なんといってもこれが特効。欠かすことができない基本にして切り札だ
「せー、の………!!!」
構えるのは、5m以上もある長竿
天秤仕掛けという、L字のようになった針金のついたオモリ。そこから伸びた三本の針
それらを、念のための周囲を確認してから振りかぶって……全力で投げる
それはもう、普段堤防や桟橋でやってる時とは比べ物にならないほどに飛んだ仕掛けははるか遠くで着水。それを確認したら、リールを巻いて糸ふけ……要するに余分なたるんだ糸を巻いてあげて
これで準備完了。そしたら、一回竿を置いて………
まだ暑くないとはいってもこまめな水分補給は大事。フラワーがわざわざ用意してくれた温かいお茶で、ちょっと冷えてきてた体もぽかぽかに
「まだ少しシーズンには早かったかなぁ」
今回のこの釣りで狙う魚は、主に砂地を好む魚だ
暖かくなってくると浅瀬にもやってきて、それを狙って手軽なちょい投げ……ぽいっと、簡単に近場に投げるだけでも釣れるのが人気で、毎年心待ちにしているファンから釣り初心者のファミリー層にまで幅広く親しまれている
だけど、今はまだ少し水温が低いことが予想されたため、今回の装備は大遠投仕様
普段だったらやれない、というか必要ないレベルの超遠投。これで、まだ浅瀬に寄り切れていない魚を狙っていく
「さてさて。少しずつさびいて、誘ってみますか」
今狙っている魚は砂の中の虫を好んで食べるので、ここに虫がいるよーとアピールしてあげる必要がある。でもあまり早く動かしすぎても追いきれないし、そもそも魚を驚かせてしまうのでできるだけゆっくり。歩く速さより少し遅いくらいかな
あとはその都度糸ふけを取ってあげるのだけど、この時にも竿先に神経を集中させないといけない
今回の群れで動くお魚だ。うまいこと群れの真ん中で止めることができれば、複数匹を一度に釣り上げることだってできるのだから
「………いやー、見事に無反応ですね」
こういう時によくかかってくるメゴチとかも全然反応がない
これは………日を読み間違えたかもしれない。ちょっと嫌な予感がしてきた
実のところ、今日はここに至るまでさんざん歩き回ってる。それこそちょっとした砂浜トレーニングになりそうなくらいは
それでこれということは………そもそも魚影があるのか事態が怪しくなってきた
「まぁ、もしかしたらとは思ってたけど………」
桜も咲いたしもういいだろう、なんて考えたのが甘かったか
さびいて、巻いて。さびいて、巻いて。少しずつ寄ってくる仕掛けと、湧き上がってくる失意
いやぁ……久々にやらかしちゃったかも
「ここでいないとなると、あとは………ん?」
そろそろ別のポイントに移動しようかと思った矢先。竿先に小さい、しかし確かな反応
つんつんとつつくようなその感触を、私は確かに知っている
「………啄んでる」
まだ、完全に口に入れてはいない
だけど確実にエサに反応したなにかが針をつついている。なら、やるべきことは一つだ
竿先を止めて、少し待つ。息を吸って、吐いて
そして、その時はついにやってきた
「………ノッた!!!」
ブルブルと震える竿先、手に伝わる確かな重み
重さ的にメゴチなどではないはず。これは期待が持てそうだ
そして、焦ることなくゆっくり巻いて来れば………
「っ、ダブルきた、かな?」
群れの中をうまく通せたのか、追い食いさせることに成功したらしい
自分の狙い通りにお魚が食いついてきた時のこの達成感。これだから釣りはやめられない
群れからもう離れただろう頃合いを見計らって、リールを巻くスピードを上げる。これ以上は逃げられる危険が上がるだけだし、仕掛けが絡んでしまったら目も当てられないから早々に引き上げなければ
だけど、焦って早巻きしてもそれはそれで危ない。なので、丁寧に丁寧に
そして、波打ち際からついに姿を見せたそれ。それはまさしく、今日のターゲットそのものだった
「シロギス、ゲット!!」
夏の季語にもなっていて、おおよそ20センチ前後が多い細長い魚体。30センチに達するものは肘タタキなんて呼ばれたりも
天ぷらのタネとして王道中の王道で、非常に高い人気を誇る……のだけど
地域的なものもあるのだけど、スーパーなどに並ぶことはそこまで多くない。なので、お店で食べることを除けば自分で釣るのが割と手軽な手段だったりする
ちなみにヒラメやマゴチの大好物でもあるので、釣れたシロギスを泳がせて更なる大物を狙うのも釣り人の定番だったり
「今のポイントに通すようにして………そい!!」
手早く餌を付け直して、再び全力遠投。そのまま先ほど釣れたエリアに近づけていく
大体この辺だったかな?というあたりまで来たところで一度止めると……再び竿先を揺らす確かな感覚
さっきの群れはまだ残っていてくれたようだ。ゆっくり、追い食いを狙って糸を巻いて
「………きたきたきた!!また連続ヒット!!」
この時合を逃がしてなるものかと、釣っては餌をつけてまた投げて、次々にシロギスを浜辺にあげていく
「やったぁ!!サイズアップ!!」
さっきまでの静かな海はどこへやら
そこから先は、すっかり夢中になって賑やかな海を相手に格闘することになった
「満足、満足ぅ」
どうも。冷えた体をお風呂で温めて、ニンジンジュース飲んでご満悦なほこほこセイちゃんです
結構温かくしていったつもりだったけどやっぱりちょい冷えちゃいました
「さてさて、準備しますかねー」
使用許可を得たキッチンに向かい、今日の釣果を再確認
シロギス、合計8匹。わずかな時合の間に集中して釣ってこれなら十分すぎるのではないだろうか。釣るのは自分で美味しく食べれる分だけ、これがセイちゃんのポリシーなのです
さてさて、お待ちかねの調理の時間です
お魚アップリケのついたエプロン付けて、準備万端気合十分。さあ、始めよう
「じゃ、まずウロコと頭とー………」
ここで、腹を裂かないように気を付けて内臓を取って水洗い。ここで破くと後が面倒になるので注意
もしも怖いなら後で取り除けるタイミングがあるのでそっちでやってもオッケー
そしたらここからが大事。包丁を慎重に持って………
「そーっと、そーっと………」
背中から丁寧に包丁を入れていく
一度にやろうとすると大概失敗に終わるので、丁寧に丁寧に、何度か包丁を入れていくイメージで
背骨に沿って刃を動かして、反対側まで入れていく。さっきと同じように、ここでお腹を切っちゃわないように注意して、と
綺麗に開けたら、反対側も同じように処理していく
上手くいくと、背びれと中骨が全部綺麗に取れるからそれを目指して。できるだけ中骨についてる身は少なく綺麗に切りたいけど、失敗すると面倒なのでほどほどに
「ふぅ、綺麗にできた。さー、あと7匹……」
あとは本当に同じことの繰り返し、単純作業。小さいお魚がたくさん釣れるとこの作業がさあ大変。嬉しい悲鳴だけど、お手伝いが欲しくなるよねなんて
あ、そうそう。ここで、さっきの中骨は絶対に捨てちゃ駄目。綺麗に洗って取っておきましょう
「うん、背開き8匹分。綺麗に完成ー」
これに限ったことじゃないけど、魚の開きが全部綺麗にできるととても嬉しくなる
さてさて、喜んでる時間は無かったり。次は衣を作ってかないと
先に油を鍋に入れて火にかけて、手早く作業していこう
「卵とー、水とー………」
しっかり冷やしておいたお水と卵を混ぜ合わせて、泡を取り除く
そしたら小麦粉を入れるんだけど、絶対にわしゃわしゃ混ぜちゃ駄目。小麦粉を入れて混ぜ過ぎると、グルテンが形成されて台無しになっちゃう
箸で突き入れるようにして混ぜて、少しダマが残ってるくらいがベスト。几帳面に混ぜ過ぎないように。何事もほどほどにが一番です
そうそう。油は後の処理がめんどくさいのは重々承知だけど、ちゃんと美味しく作りたいのであればケチることなく多めに入れるとベスト
揚げ物は意外とすぐに油の温度が下がりがちなので、からっと美味しく仕上げたいのであれば多めの油で少しずつ調理しましょう。いいお店なんかで一個ずつ揚げてるのはちゃんと理由があるんです
衣に開いたキスを潜らせて、175度〜180度の油にそーっと入れていく。言うまでも無いけど、火傷しないように気を付けて
「んー、いい音。この音聞いてるとお腹空いてくるよねー」
一度にたくさん入れないことで、衣同士が接触して剥がれるのも防げるので焦らず急がず、でも焦げないように揚げていく
「………あ!!忘れてた!!いけないいけない」
道具も取り出したところで第一陣が揚がったので油切り網の上にそっと置いていく
うーん、綺麗な揚げ色。これにはセイちゃんも大満足です
「さて、次のを入れて………」
その横で、しゃかしゃか、しゃかしゃかと。大根をすり下ろしていく
そうだよね。天ぷらがあるんだったら、ちゃんと大根おろしも用意しないとね
鍋の様子を見ながら、手を怪我しないように気を付けて。こういう時気を抜くと危ないので、注意はしっかりと
「美味しく揚がってるといいなー」
第二陣を油から上げながら、鼻歌交じりに呟いて
次のキスを、油の中に沈めていった
「かーんせーい」
目の前に広がるのは、まだ熱々の料理たち。さあさ、ご飯を程よく盛りつけまして
テーブルに座って見渡せば、今日の努力の結晶達が待っていた
本日のメニュー
ごはん
キスの天ぷら
しいたけの天ぷら
キスの骨せんべい
しいたけは帰りに買ってきました。キスだけでもいいかなーと思ったけど、なんか寂しい気もしたので
さて、これにて準備は万端。手を合わせて、目を瞑って。大事な挨拶を
まずはキスの天ぷらに塩を振りかけて、そのまま齧る。やっぱり揚げたての天ぷらには、特にキスには塩がよく合うもんね
さくっと心地よい歯ごたえの中から姿を現す、ほっくりとしたキスの白身。ほのかな甘みと香りが口の中に広がって、それを邪魔することなくむしろ塩が引きたてて
しっとりホクホクのキスは天ぷらにするとその味が一番よくわかる。この瞬間、今日一日の苦労が全て報われた気がした
「さて、お次は天つゆで………」
天つゆにサッと潜らせたキスの天ぷらは、先ほどとは大きく姿を変えて
程よい甘味の汁が衣に染みて、まだ残ったサクサクとした衣の食感と合わさって弾けるように口の中に広がっていく
そこに白いご飯を一緒に食べれば………はふぅ。これはもう反則です。キスの身の甘さとしっとりした食感がまたご飯によく合うんです
帰り道に寄った道の駅で、何にしようか悩んだ末に買ったその肉厚のしいたけ
衣の心地よい食感の下からぷりんとした歯ごたえ、そして期待通りの強い甘味と香り
しいたけはバター炒めとかにして別個で料理しようかとも考えたけど、これは天ぷらで正解だった。しっかりとした、けど歯切れのいいその食感が癖になる
「さて、そろそろ………」
ある程度キスとしいたけを食べ進めたところで、今度は天つゆに大根おろしを投入
それにさっとキス天を潜らせて口に入れれば、大根おろしの爽やかな香りと程よい酸味と辛み。これが天ぷらの味わいを大きく変化させて、先ほどの天つゆの濃厚な味から一変さっぱりと食べられるように
新鮮だからかいい個体だからか、キスの身の甘さは決してその味わいに負けていない
上品な味がウリのキス天だけど、こうすると結構パンチ力のあるしっかりとした味になってくれて、白いご飯が進む進む
箸休めにと手を伸ばしたのは、キスの中骨の骨せんべい
先ほど背開きにした時に取っておいた中骨をからっと揚げて、塩をまぶしただけの簡単な料理
だけどこれが不思議と病みつきになる。同じ揚げ物でも天ぷらとは大きく違う。香ばしさと、噛めば噛むほどに出てくるその味が愛しい
じいちゃんはこれを作るととても喜んでくれる。なんでも、これがお酒によく合うのだとか
私もお酒を飲めるようになったらその気持ちがわかるのかな、って何度か考えた。その時が、ちょっと楽しみだったり
「んー、美味しい。じゃあ、最後に………」
ご飯をちょっとだけ追加して
残ったキス天を、天つゆにしっかり沈める。衣にしっかりと染みこむように
これをご飯に乗せて………完成。即席、ミニキス天丼
衣が若干しっとりしたキス天を天つゆの染みたご飯と一緒に食べて。もう、大満足です
ちょっとお行儀悪いけど、掻っ込むようにして食べちゃって。ご飯粒残さないように綺麗に食べ終わっちゃった
「最後に、と」
残ったのは、骨せんべいが一個。それを口に入れて噛みしめて、今日一日の名残を惜しむ
そろそろ季節は春も本番、これからどんどん温かくなって魚の動きも活性化してくる。釣りは、これからが本番だ
釣ってみたい魚は山ほどいる。そのどれもが魅力的で、でも出会えるかどうかはその時までわからない
なのに今からもうその勝負を空想しちゃってる。我ながら、本当に欲深いというかなんというか
「……これで、気合も十分」
きっとこれから、私が挑むレースは今まで以上に激しい戦いになってくる。去年通じたものはもう通じない
最新の自分をぶつけて、全力で挑むしかない。策はあくまでも策。最後の最後には、自分自身の実力が物を言うのだから
だから、今は。それに向けて、そう………英気を養う、みたいな感じ
既に何度も戦ってきたライバル達、そしてこれから出会う強敵たちに負けないように。自分の『好き』で、自分を整えて
……難しい事言ってるみたいになってるけど、結局はまあ
「好きなことして、美味しいもの食べて。それだけだけど、ね」
さあ、今日一日の締めくくりだ
「さて、と」
考えることは色々あるけど、まずは大事な大事なご挨拶
今日一日を思い返して、目を瞑って
両手を合わせて、食材に敬意と感謝をもって
「………ごちそうさまでした」
また次の釣りも、楽しく美味しい一日になりますように
明日の昼飯は天ぷらにするか…
天麩羅の中でもっとも美味いと言ってさえいいと思っている
個人的にはキス天とイカ天がツートップ
明日買ってこようかな
そういうのよくあるの?
よくあるって程じゃないけど時々確認されてる
ただキス用の針でヒラメをしっかり持ってくるのはかなりムズイのでその点でも難易度高い
マゴチは一回あったよ
糸細いから暴れて仕掛けに絡んでくれた方が上げやすい
なおエサ
シマノのハイエンドで竿一本20万越えだもんな…
オモリはダイワのトップガンが一個5000円
どんな趣味も道具に拘れば天井知らずなのは一緒か…
めちゃ可愛いのに匂いを気にして近寄らせてくれないセイちゃん
そこをハグする
飛距離を出すには竿をしっかり曲げ込める技術も必要になるけど