――トレセン学園に彼女の底抜けに明るい掛け声が響かなくなったのはもう幾年か前。
誰よりも前向きな俺の担当……いや、“元"担当のマーベラスサンデーは、幾多のレースをともに駆け抜けそしてトレセン学園を卒業していった。彼女はそのまま大学に進学して考古学を専攻しているらしい。
俺は俺で、新たなウマ娘の担当トレーナーとなり、マーベラスの時のように忙しくも充実した日々を送っていた。トレセン学園からの卒業により、マーベラスサンデーと俺は別々の道を歩むことになった……。
『今日もいっぱいマーベラス☆★☆ だったよっ★』
それでも、俺とマーベラスの繋がりは失くなった訳ではなかった。
彼女はトレセン学園を出た後も、日課のマーベラス探しを続けていた。そして毎晩自分に、その日見つけたマーベラスをLANEで届けてくれるのだ。
教授の講義がとってもマーベラスだった。学食の日替わりメニューを選んでみたらとっても美味しかった。フィールドワークでいっぱいワクワクのマーベラス☆★☆ を見つけられた。
『今日もいっぱいマーベラスだったんだな!』
『うん! とーってもマーベラス☆★☆』
『明日もきっとマーベラスだな』
『うん☆★☆ だからおやすみ! トレーナーっ☆』
『おやすみ、マーベラス!』
毎晩のやりとり。こんな他愛もないLANEが、今の俺たちを繋いでくれている。大切なマーベラス――。
いつまでも――自分が担当トレーナーじゃなくなった今でも、彼女にとってマーベラスを“一番"に伝えたいひとでいられることが、どれだけ嬉しいことか。
最初は気づかなかったが、今では毎日のように噛みしめている。
『それじゃあ乾杯だね……☆ マーベラースっ★』
予定が合う日は、一緒に食事に行く日もあった。
まさか、教え子と一緒にお酒を飲める日が来るとは思わなかった……だが、それも今では当たり前の出来事。
これも、大切なマーベラス。
『……ねえ、トレーナー……☆ ……ふふっ、呼んでみただけ……★』
甘いお酒をコクコクと飲んでいるマーベラスサンデーは、あははと楽しそうに笑っていたかと思えば、時折そっと俺を呼ぶ。それの何が楽しいのかまでは理解できないが、その時の彼女の表情はとても……マーベラスだ。
『トレーナー……☆ アタシね、いま、とーっても……マーベラース……☆★☆』
静かに微笑む彼女の横顔に、大人になったマーベラスに、魅入られてしまったのはいつからだっただろう。
『……マーベラス……☆』
彼女の言葉に、仕草に、目を奪われる。
この数年で背も伸び、言葉に大人の“間"が生まれ、表情もすっかり少女から女性らしく――『マーベラス☆★☆』……ああ、いつものあどけない少女の表情も残して、とても大人っぽくなってしまったマーベラスサンデー。そんな彼女に心が惹かれるのは……。
担当とトレーナーだったあの頃から、マーベラスサンデーには魅了されていた。出逢ったあの日から、マーベラス☆ は俺の心をとらえて離さなかったし、マーベラスの夢が自分の夢になったのもすぐだった。
彼女の笑顔に、言動に、マーベラスに、惚れていた。
でもそれは、あくまでトレーナーとして、だった。少なくともあの頃はそのつもりだった。
彼女は学生で、教え子で、俺は指導者、トレーナー。
彼女のマーベラスで俺の生き方は大きく変わり、人生に色がついた。そのリスペクトはあった。それでも、立場は弁えていた。
だが、一度離れて。再び出逢って。どうだろう。
『ふふっ、それってとっても……マーベラスだね……☆』
『マーベラースっ☆★☆』
これは、内に秘めるべき感情だ。
何故なら、“元"とはいっても自分はトレーナーで、彼女は担当だ。許されない想いだと、或いは指導者失格だと、思わずにはいられなかった。
『ねぇ、トレーナーは、マーベラス?』
……だが、彼女はどう思うだろうか。
マーベラスサンデーなら、そんなことで悩む俺を見て、なんて声を掛けるだろうか――。
『――その気持ちっ☆ とーってもマーベラスだねっ☆★☆ それなのに隠しちゃうなんてもったいないっ! ドキドキでソワソワな想い☆ とっても分かるよっ!
だから、その想い、伝えちゃお☆★☆ そうすれば、きっとマーベラス☆★☆ とっても素敵なことだからっ!』
心の中のマーベラスサンデーが、そう言って背中を後押ししてくれる。
それを伝えた時、彼女は喜ぶだろう。それはとってもマーベラス☆ だから。……まあ、その後どうするかはまったく分からないのだけども。
『ありがとうっトレーナー☆★☆ その気持ちっとってもマーベラスだねっ☆★☆ 嬉しいっ☆★☆』
『でも、あはは☆★☆ ゴメンねっトレーナー☆★☆』
……ああ、そういう想像もありありと浮かぶ。
きっと、断るときだってマーベラスサンデーはマーベラスサンデーだ。
でも、それで心は軽くなった。覚悟も決まった。
トレーナー失格かもしれない。何かが決定的に変わってしまうかもしれない。
……だが、それでも、彼女に伝えたい『マーベラス』があったから――――。
「ん〜〜〜〜☆★☆ マーベラース☆★☆★☆」
部屋に戻ると、マーベラスサンデーは我慢していた分を一気に放出するようにマーベラスを叫んだ。
「トレーナーっ! とってもいいお湯だったねっ☆ マーベラース☆★☆」
「ああ、気持ちよかったな」
浴衣に身を包み、湯上がりぽかぽかのマーベラスサンデーが楽しそうに笑う。
嬉しいときは思いっきり。彼女はあの頃とおんなじ、とってもマーベラスな表情をする。
「ねぇトレーナーっ! 今日はいーっぱい色んなとこに行ったねっ☆ いーっぱい二人で楽しんだねっ! う〜〜〜〜ん☆★☆ 温泉旅行って、マーベラースっ☆★☆★☆」
「そうだな、マーベラス☆ だな……!」
『――トレーナー、それって……☆★☆ とーっても……とーってもっ! マーベラスっ……☆★☆』
彼女はとても喜んでくれた。お互い忙しい身で、一緒に出掛けることはあれど、中々泊りがけの旅行をする機会は無かった。だから、初めての温泉旅行。ワクワクとドキドキのマーベラスだ。
「あははっ! 一日中☆ ずっと、ずーーっとトレーナーといっしょ☆★☆ 楽しくてっワクワクでっ★ とってもとってもマーベラス☆★☆」
「そんなに喜んでくれて嬉しいよ。俺も、久々にマーベラスと一緒にいれて嬉しい……とってもマーベラスだ」
あの頃と変わらない、キラキラな眼差し。この数年で随分と大人っぽくなったマーベラスサンデーだけど、この瞳の輝きはあの頃のまま。
「不思議だね。あの頃はあんなにずっと一緒で、毎日のマーベラスで! だけど今は、ずっと一緒にいられることがそれだけで、特別なマーベラス……☆」
ああ、マーベラス……。過去に懐かしさを感じながらも、今はこの歓びを、幸せを噛みしめる。
「…………えへへ……マーベラース……☆★☆」
マーベラスサンデーも、小さく、噛みしめるように呟く。
……ああ、今この歓びは、幸せは、二人の物なのだ。分かち合えるマーベラス。二人のマーベラス。
「……ねえ、トレーナー……☆」
「……どうした、マーベラス」
「ありがとね……☆ 素敵な旅を、幸せな時間を……。とってもおっきなマーベラスをくれてっ」
彼女はぎゅっと抱きついてくる。ぽかぽかで、柔らかな彼女の身体を感じて、鼓動が早くなる。
「だいすきっ……☆★☆」
ちゅっ。
ただ一言、愛の言葉を紡いだマーベラスサンデーの唇が、俺の唇と重なる――。
幸せを噛みしめるように、分かち合うように、いつまでも――。
おわり
ちなみに成人したマーベラース☆は身長伸びてるんですか
伸びてる方が大人感でてて良いかもしれないですね
マーベラスがつなぐ縁っていいねぇ…
ぎゅーっ……☆★☆
「マーベラース……☆」
こうして抱き合って、どれだけの時間が経っただろうか。マーベラスはより深く繋がるように、何度も何度もぎゅっと抱きしめてくる。
その度に、彼女の想いが、熱が、柔らかさが、狂いそうなくらいに伝わってくる。
「……マーベラス……☆」
ぎゅーっ……!
噛みしめるような彼女の、幸せそうな声と圧迫感。そこにある確かな愛を感じながら、ぎゅっと抱き返す。
「ああ、そうだな。……お風呂上がりだからかな?」
少し彼女をからかいたくなって、おどけて軽口を飛ばす。
「あははっ、そうだけどー違うよー……! トレーナーとアタシだから、あったかいの……」
とん。
俺の胸に、マーベラスがそっと顔をあずける。
「えへへっ、トレーナーおっきい……ポカポカするね……☆」
彼女の表情は見えないが、きっとほころんでいるだろうと感じる。スリスリ……と子犬のように顔をすりつけてくる。
その言葉に、ああ。と返す。こんなにも近くでマーベラスサンデーを感じられているのだ。ドキドキしない筈がない。
「…………ホントだ……☆ トクンっトクンって、トレーナーの鼓動が聴こえるよっ……☆★」
そう言われて、自分の鼓動に意識が向く。意識をしてしまうと、恥ずかしさがやって来る。
「……あははっ、ちょっと早くなった☆ トレーナードキドキしちゃったー?」
「全部聴かれてるの、ちょっと恥ずかしいかもしれないな……」
パッと顔を上げてこちらを見つめ問いかけるマーベラスに、思わず顔を背けてしまう。
「…………ん、じゃあじゃあ……」
ムギュぅ…………!
むにゅぅ……。
「ま、マーベラス……!?」
「えへへっ……これなら、アタシのドキドキも聴こえるかなっ?」
マーベラスは、むにゅりとその柔らかな胸を押し当てるように抱きついていた。
これまで、あまり意識をしないようにしていた彼女の大きくて柔らかな部分を、じっくりと鮮明に認識させられる。
「ほらっアタシのドキドキ聴こえる? トレーナーだけドキドキ聴かれちゃうのはズルだもんねっ……! アタシのも、聴いていいよ……☆」
「っ……ま、マーベラス……っ」
彼女の“もの"は、非常に豊かであった。担当していた頃から――決してそういう目で見ていた訳では無いのだが――既に立派だったそれは、大人になった今も変わらず……否、あの頃よりも存在感を主張してくるようになってしまった。
彼女への想いや彼女との関係が変わった今も、意識を逸し続けなければならなかった彼女の大きな胸が、今ぎゅっと強く押し当てられている……そんな状況で、平常でいられる訳がない。
「えへへっ……トレーナー……☆ ごめんね、もっとドキドキさせちゃった……?☆」
「っ……いや、それは……」
言葉が詰まる。
マーベラスは、ただ自分の鼓動を感じて欲しいだけなのだ。彼女は無邪気だ。誰よりも純粋でマーベラスな存在だ。
それなのに、俺の中にある不純なナニカがマーベラスを妨げている……。
「ごめん、マーベラスっ……せっかく、伝えてくれようとしてるのに、俺は……っ」
「…………いいんだよっ☆」
「トレーナーは、ドキドキしちゃったんだよねっ……☆ それって、アタシがギューってしたから……だよね……?」
「だいすきな人と触れ合うのって、とってもドキドキだよね……! アタシ分かるよ。だって……今アタシ、とってもドキドキしてるもんっ」
マーベラスの告白に、心臓が跳ねる。
「あのねっ……☆ いまアタシ、とっても大胆なことしちゃってるなーって……わかるよ?」
「なっ……」
「えへへっ……ドキドキしてるっ……☆ ギュって、ムギュぅってしてるの、だいすきな人に、その……してて……。ホントは、アタシもドキドキ……でも、トレーナーがドキドキしてくれたからっ……アタシのドキドキは、キュンキュンになってね……☆★」
マーベラスサンデーが伝えてくれてること、それは自分のまったく予想もしていなかったマーベラスサンデーの姿で……。
「トレーナーがドキドキのマーベラスになってる……☆ ……アタシの、お胸で……★ それって、とってもキュンキュンなマーベラスっ……☆」
より強く、マーベラスの胸が押し当てられる。
「…………イケないこと、だよね……☆ でも、トレーナーなら……いいよっ……♡ えへへ……☆★☆」
マーベラスの甘い言葉に、理性が、溶かされていく……。痛いくらいに鼓動は高鳴っている。
ああ、駄目だ……こんなマーベラス、耐えきれる訳がない。
「――トレーナーっ……☆ だいすきっ♡♡」
むにゅんっ☆★☆
マーベラスが弾む。感触が伝わる。
そして、熱を孕んだ眼差しに魅入られる。
「――俺も、だ……。愛してる……マーベラス……っ……!」
――――――
おわり
いいですよね