正確には中国からの渡来だろうか。まあ、うん、どちらでもいい。
昨日読んだ故事の話を、なんとなく流れる雲のスクリーンに映していた。
日愛親善大使の任に就いてから数年、ファインモーションは立派に成年を果たした。
今はまだ王女の身ではあるが、代替わりの暁には国の象徴として申し分ないだろうと多くの者が認めるほどに。
深い教養、芸術への造詣に加え、国外とは言えシリーズレースを類まれな成績で走り切ったウマ娘としての身体能力。
また月刊誌に報道されるくらいに開け広げた庶民じみた一面も、彼女の親しみやすさに一役買っていた。
そん周囲が称える人柄だからこそ、視察と銘打った母校訪問を取り付けることも比較的容易なのだという。
「殿下、滅多な事はお口にされない方が」
「分かっています。あくまで視察。ですが、その過程で友人や後輩の助けを得るかもしれませんし、そのお礼も必要でしょう、ね?」
「……そう、ですね」
心弾ませる幾回目かのフライトが、大西洋を横断していく。
「おほん。……それでは今、トレーナーは」
「謝罪っ……今はアメリカに出張中であり、帰ってくるのは早くても……」
「頭を上げてください、理事長。帰ってきたら、よろしく伝えてくださる?」
初っ端から、心待ちにしていたイベントの一つが潰れてしまった。
仕事の都合に一訪問者が文句をつけるわけにもいかず、むしろ海外出張は栄転なのだから喜ぶべきだ。
内心の落胆を隠しながら理事長室を後にした彼女は、それでも耐え切れずに小さなため息を一つ吐いた。
久しぶりの来日と聞いて駆け付けた友人、偉大な先輩として慕ってくる現役の後輩、生の王族見たさにやってくる野次馬、パパラッチらをテキパキと相手取り、機を伺っては恋しかった現地のラーメン屋巡りに精を出し、無論建前としてのトレセン学園含めURA管轄のレース施設の視察成果として十分なレポートを仕上げる。
「はぁっ……お仕事おーわりー……」
「お疲れさまでした。紅茶を入れましょうか」
「おねがーい……」
それらが全て終わったのは、1週間の滞在最後の日没をとうに過ぎたころだった。
ホテルのベッドに土足で寝そべる姿は、威厳とは程遠く、20代前半の女性等身大の振る舞いだった。
枕元で電源を切っていた私用スマホを再起動すると、自然と指先はメールボックスをはじく。
友人たちからのお礼、スワイプ、家族からの近況伺い、スワイプ……
無意識に彼の名前を探している自分に気が付き、大きなため息と共にスマホがマットレスを跳ねる。
事実この視察で楽しかった思い出は、どれもこれも鮮明に残している。
ただ、食事に一粒砂利が混じるように、たった一点不満を残してしまった。
「会いたかったなぁ」
小さな声はマットレスが吸い上げ、誰も聞くことは無かった。
「殿下、紅茶が入りました」
自分を呼ぶ声にのそりと起き上がり、小さなワゴンカーで運ばれてきた紅茶を受け取る。
熱いカップに唇を付ければ深く、豊かな香りが鼻をくすぐる。
数滴啜ったそのぬくもりが、公務で凝った体に染みわたっていく。
SP隊長が肩を揉み解しながらする、明日の日程の確認にうんうんと確認を入れながら、頭の中はもう少ししょうもないことを考えていた。
彼はまあ優秀だから海外研修に抜擢されるのは理解できる。誇らしい。
でもトレセンの仕事で行く以上、現地ウマ娘とも沢山出会うわけで。
才能ある子も中にはいるんだろうな。私みたいにスカウトしちゃうかも。
そうしたら出張どころか駐在かな。現地で沢山トレーニングするんだろうな。
いいな。羨ましい。
もはや現役を退いた身で、単なるOGというには過ぎた身分で、我儘を言うような歳でもなくなって。
それでも、あの時みたいに。
「君は、それでいいの……?」
「殿下?」
弾みを付けて起き上がり、スマホからスケジュールを呼び出す。
やりたいことがあるなら自分で掴もう。
大好きなあの人みたいに。
「アメリカ行きを画策してるなら、スケジュール的には少なくとも半年は難しいかと……」
「その間にトレーナーは」
「学園に戻っているでしょうね」
「もう一回来日」
「一年は様子を見た方が……今回、無茶を通したので……」
「……やっぱりダメかぁ」
むしろここまで人並の生活を体験できていたのが十分幸運だった。
「今だけ恨むぞー……」
貴方がいなければ、こんなに欲張りにはならなかったと思いますから。
大使館に挨拶をして、最後のラーメンを啜ったらもう夕暮れ時だった。
大きな窓に、遮る物が何もない夕焼けは綺麗で、やはりどこか寂しく感じる。
遠く聞こえる風切りの音を聞きながら、別れのフライトを待つ。
あの頃も、今も、それ以上望む物なんて無いのに。
たった一人足りないだけで、こうも。
「……殿下」
「フライトの時間ですね。すぐに搭乗を」
「いえ、お客様です」
「……こんな時に?」
了承を受けて、SP隊長がインカムで指示を出しに戻っていった。
うるさくなる胸の音を流し込むように水を飲む。
だって、どうしても期待してしまう。
裏切られることを思うと怖くてたまらないのに。
童話のエンディングみたいな都合のいいこと、あるはずが無いって。
だってそんなことをされたら、私は───
「……久しぶり、ファイン」
眩い夕焼けの中、一人の女の子が、男の胸に飛び込んでいった。
おい待てぇ完結させる予定はあるんだろうな
供養!!?
殿下がトレーナーにプロポーズする夢を見たので出力しよう
→ここまで惚れ込む過程が気になるわ!
→これ
そんな浮かれた若者みたいなことせずにちゃんと場を設けて逃げられないように退路全部断ってトレーナーが断れないのも知ってる上で担当とトレーナーの関係から踏み出すことを選ばせるようにプロポーズするんです
そういう夢だったんです時間どこ
今
これから深夜だから多分もうちょっとあるんだ
まあさっきのとかこれみたいなクオリティの書けないからやめとくが
他人のファイン怪文書からしか得られない栄養素があるから書け
急いで!
そして夢を見なさい