鍋の底にある細かく刻んだ鶏肉を焦がさないようにヘラで絶えずかき混ぜていく。
「おっ いい匂いがしてきた」
リビングからだらっとした声が飛んでくる。
「いや、まだ始まったばっかりだから…」
鶏肉がいい色になったら、冷凍の和風野菜ミックスとちぎったコンニャクを加えてさらに炒める。
そこに水で戻した乾燥シイタケを汁ごと鍋へ注ぎ、砂糖、醤油、みりん、料理酒を加えていく。
アルミホイルの落し蓋を入れて火の勢いを調整し、暫く煮立たせて冷ませば完成だ。
リビングにいたはずの声の主が俺の近くにやってきた。
「そんな仰々しいものじゃないよ…簡単だし献立に迷うとよく作るんだ」
ある時、夕飯時に家に招かれそのお礼に俺が料理を作った事が切欠で、その後もミスターシービーの家で料理を作るようになっていた。
アタシのキッチンでトレーナーが料理してると猫のようにそわそわしていた頃が懐かしい。
「気に入ってもらえて良かったよ、冷蔵しておけば数日は持つけど早めに食べてね」
食事と片付けも終わりそろそろ帰ろうかと考えていると、ふとテーブルの上の広げられたカタログに目に留まった。
そのページにはハンモックの写真がずらりと並んでいた。
シービーはハンモックを好んで使う。ある正月にトレーナー室にこたつを置くはずが気が付いたらハンモックになっていた事もあった。
「そこのハンモックがしっくりこなくなって、そろそろ替えようかなって」
「ちょっと乗ってみてもいい?」
「いいよ、乗ればおかしいって分かるから」
ちょっとした好奇心でハンモックに寝転がってみたが正直な所違いが分からなかった。
「え、これでおかしいのか?普通な感じがするけど」
「んー、言葉で説明すると難しいんだけど…」
と、シービーは俺が寝ているにも関わらずハンモックに寝転がってきた。
「大丈夫、これ位じゃ壊れないから」
「いやでも…」
ハンモックの心配もしていたが、それ以上に目の前にシービーが居る事にドキドキしてしまっている自分がいた。
気取られる前に早く降りたい…と思っているとシービーと目が合ってしまい、
「ふーん……キミってさ、変な所で純情だよね」
「わ、悪いかよ…」
こういった事でシービーには到底敵わず、呆気なく見透かされてしまった。
「とにかく退けてくれ…降りるから」
「アタシはこのままでもいいけど?」
「…はぁ…分かったよ、気が済むまでどうぞ…」
観念して俺は流れに身を任せることにした。
「そもそもこのハンモックにおかしい所ってあるのか?トレーナー室にあるのと差を感じないけど…」
「………」
「なあ、シービー……って!?」
「すー……」
妙に静かになったと思ったらシービーは寝息を立て始めていた。
「ちょっと、起きて!」
肩を揺らしても目覚める気配はない。
何がしっくりこないのか怒気を込めたツッコミを入れたい衝動に駆られた瞬間、玄関からカチャっと鍵の回る音がした。
「シービー、ご飯持ってきたわよーってあら?トレーナーさん来てるのー?」
「レースの相談でもしてるんじゃないか?ほら、もうすぐあるって言ってた重賞の…」
「シービー…!頼むから起きて…!」
シービーの両親があらあらあらと目を輝かせたのは数十秒後の出来事だった。
シニアの正月イベントを見てふと脳内に現れた幻覚
ハンモックは粗悪品でもない限り一度買えば10年ぐらいは持つとか
耐荷重200kgとか二人で寝転がれるのもあるらしいよ
意外と頑丈なんだな…
これ必要ならロッカーに押し込められて2人で密着しながらやり過ごすやつだと思って読んでた
猫のマネするCBが見れるのは多分ここだけ
改めて思うけどナチュラルに距離感バグってない??
年頃の娘さんと大人の指導者がこんな状態になったら普通キレるところ…!
ノーコメントで…