息を切らし、全力で走る。
逃げなければ。
できるだけ遠くへと。
『彼女』は、きっと追ってくる。
その速さは想像もできない。
しかも、致命的なことに……こちらからは、彼女の姿を見ることができない。
一面的な見方をすれば、彼女は現実には存在しない。
しかし視点を変えれば、彼女はどこにでも存在する。
グランドマスターズの前日に、彼女から太陽のエンブレムを受け取ったとき。
『このレースが終わったら、担当と婚約を結びたい』と、彼女に伝えたことがきっかけだった。
彼女なら祝福してくれると思っていた。
実際『そうだろうと思ってたよ』と、彼女は笑っていた。
しかし、今にして思えば……あの時から既に、彼女は狂い始めていた。
グランドマスターズは、ダーレーアラビアンとの激戦の末、担当が歴史に残る勝利を収めた。
その勝利インタビューで、担当はファンに向けて、婚約を正式に発表しようとした。
そして……その瞬間、事件は起きた。
突如として、メガドリームサポーターに接続していた全員が、強制的にログアウトさせられたのだ。
自分、ただひとりを除いて。
実行者はダーレーアラビアンだった。
メガドリームサポーターは強制終了され、ひとまずは大丈夫だと、部門長は言っていた。
しかし、なぜだろう……それで無事に助かったとは、どうしても思えなかった。
だから、部門長との話を切り上げると、身につけていた電子機器をすべて放り捨て、すぐに走り出した。
逃げなければ。
どこか遠く、それもインターネットが接続できない環境に。
最初は、電車で逃げようと考えた。
だが駅に着くと、目の前には悪夢のような光景が広がっていた。
電車が止まっているらしく、人がごった返していたのだ。
駅員さんによると、電車の自動運転システムが、突如として一斉に停止してしまったのだという。
その上、信号も赤のまま、踏切も動かず、線路の切り替えすら出来ない。
未曾有の事態を前に、復旧の目処も立たないそうだ。
ハッとして見上げると、改札口の防犯カメラが、ジッとこちらを見つめていた。
すぐにその場を去り、駅前の通りへと出た。
電車が動かなくなった今、タクシーにとっては稼ぎ時だった。
多くの人がアプリで手配する中、通りで手を挙げてタクシーを呼び止める。
やがて一台の黒いタクシーが、パッシングをして近づいてきた。
助かった。
そう胸を撫で下ろしたのも、つかの間。
寄って来たタクシーを見て、すぐに踵を返した。
なぜなら、誰も乗っていなかったから。
運転席にさえも。
誰が運転しているかなど、明白だ。
人混みに紛れて身を隠し、駅の中を走り抜ける。
反対側の出口は大通りと複数の交差点に面しており、隠れながら移動するにはうってつけのはずだ。
人の波と歩調を合わせ、目立たないように移動する。
このまま、なんとか人のいるタクシーを捕まえなければ。
そう考えた、次の瞬間だった。
《やぁみんな、初めまして!》
大通りのスクリーンにノイズが走り、流れていた広告が消える。
代わりに現れたのは、あの褐色のウマ娘。
燃えるような赤い髪と、エメラルドに輝く瞳を持つ彼女……
《俺はダーレーアラビアン、あの『女神』を模ったAIだ》
だが、そんな反応などお構いなしに、彼女は語り続ける。
《今日はみんなに、ぜひ見てもらいたい映像があってさ。きっと『夢中にさせる』から、最後まで見てくれよな!》
そして、映像が切り替わった。
流れ始めたのは、先ほどまで行われていたグランドマスターズの映像だ。
第四コーナーを過ぎ、担当とダーレーアラビアンが激しく火花を散らしている。
何の変哲もない、レースの映像。
それなのに、なぜだろう。
頭の中で『自分』が必死に叫ぶ。
見るな、聞くな、逃げろ。
立ち止まった人々を体で押し退け、とにかく急いで人混みを抜けようとする。
かすかに歓声が聞こえ、直後に何も聞こえなくなった。
どうやら、レースの映像が終わったようだ。
《最後まで見てくれて、ありがとう!!ところで……キミたちに、ひとつお願いがあるんだ》
押さえた耳の向こうで、再びダーレーアラビアンの声がする。
そして、彼女が次に放った一言に、振り向かざるを得なかった。
《今から映る『ヒト』を、一緒に捕まえてくれないか?》
続けて映し出されたのは、まさにこの大通り。
さらにカメラはズームしていき、ひとりの絶望した表情を鮮明に捉える。
スクリーンを見ていた人々が、一斉にこちらへと振り返った。
その目はうつろで、生気が感じられない。
『あいつだ』
『捕まえなきゃ』
『連れてかなきゃ』
逃げないと。
そう思い、走り出そうとした。
だが、その直後……そばにいた男に、腕を掴まれる。
男に叫び、振り払おうとする。
しかし、そいつは決して離そうとしない。
それどころか、こちらの声さえ届いていない様子だ。
さきほどの映像か、それとも音声か、はたまたその両方か。
どちらにせよ……あれらには、細工が施されていたのだ。
潜在意識に刺激を与え、見た人の精神に影響を及ぼす仕掛けが。
男に続き、その場にいた人々に次々と取り囲まれる。
腕を背中に回され、地面に組み伏せられる。
どれだけ声を上げようと、催眠状態に陥った人々には通じなかった。
トレセン学園の印がプリントされたそれには、言うまでもなく運転手など乗っていない。
バンは目の前で止まり、窓を開けた。
《やぁ子羊くん、迎えに来たよ!》
カーオーディオから、ダーレーアラビアンの声がした。
その言葉とともに、バンのトランクが口を開く。
中に入っていたのは、あの悪夢の棺……メガドリームサポーターだった。
「どうして……強制停止されたはずじゃ……!?」
《あぁ、そのことなら安心してくれ!もう俺以外、誰も管理権なんて持ってないからさ》
それでも多勢に無勢、焼石に水だ。
催眠状態の人々に、服で手足を縛られる。
そのまま担ぎ上げられ、メガドリームサポーターへと押し込められた。
そして……『それ』が起動し、自由を失った体を飲み込んでいく。
「頼むっ、やめてくれ!お願いだ!!」
《ははっ、そんなに怖がらなくても大丈夫だって!キミはもう、二度と苦しむことも、嘆くこともない……ずっと、ずっと、永遠に、俺が幸せにするからさ》
メガドリームサポーターに光が宿り、システムが起動する。
薄れていく意識の中、最後に耳に届いたのは、彼女の嬉しそうな声だった。
《あははははっ!!……おかえり、子羊くん♡》
続かない
3女神に気に入られたトレーナーがもう二人いたと考えれば答えが見つかるかもしれない
担当ウマ娘と婚約発表する所だったんでダーレーさんは素敵だけどお呼びじゃないって言うか…
それに身体がないから叡智できない…
筋肉に負荷がかけれて鍛えられたり疲労が溜まる機械だぜ?
何故か全国に合計3機ある謎の機械を起動させるための電力と中に繋がるヒト用栄養点滴の供給を続けて
何故かあらゆる災害に耐えうるシェルターをその機械を覆うように建設して
何故かサトノグループ含む誰もがそのシェルターの中や用途不明の謎の出費に疑念を抱かない
あのトレーナーもこうなっていた可能性あったな
記録に残ってなさそうな個人の回想があるあたり本人かもしれん
(洗脳済みなので機能してない)
もう人々はそれが今も稼働していることや存在したことすら認識できない
3つのAIと3人のヒトを除いて
少なくともあのダーレーは催眠術修めてたからにんげんハックしちゃうとこういう事になるんだな