《幻聴ではなくコーラル波形だと、それが友人だと、本気で言っているのか?》
神妙な面持ちで真面目に聞いてほしいというから聞いてはみたが、
幻聴にしては随分と凝った設定をつけたものだと感心することしきり。
しかし、それが想像上の設定だというには不整合が多すぎる事に気付くのには、
そう時間はかからなかった。
確かにSF創作の中では無機物のネットワークが自我を持つという話は
枚挙に暇がないほどの数がある。しかしだ。
幻聴の設定を考えたにしては、621の考えられるものとも思えない。
何しろそんな着想を得られるほどの「機能」が621には無い。
思えば燃え残ったコーラルを焼き尽くす事ばかり考えていたが、
コーラルそのものについての性質は通り一遍の事しか調べていなかった。
技研のデータを私的に調査収集するミッションを621に与えたところ、
手探りとは思えない勘の良さを見せた。
それも幻聴……コーラル波形の友人から助言があったからこそだという。
得られた情報からは波形が自我を持つという確証は得られなかったが、
状況証拠だけがじわじわと不気味に積み上がっていく。
友人か……。
《確か、そのコーラル波形……エアと言ったか。情報ログを売買したと言っていたな》
俺が不在の間にコーラル波形からの依頼を受けていたのだという。
不用意に出歩かないよう注意したせいか、621が画面越しにバツの悪そうな顔をするが。
《通信に割り込むことは可能か?》
《ようやくお話できました。はじめまして、ハンドラー・ウォルター》
俺の言葉に半ば被せ気味に、割り込んでくる女性の声。
待ってましたと言わんばかりの勢いに、少し面食らってしまった。
頭に直接聞こえる交信ではない声は、621も初めて聞いたらしい。
コーラル波形かどうかは別として、実在するのは間違いないようだ。
エアの存在自体は間違いないようだが、俺の目的を話すわけにはいかない。
だが、彼女のハッキング能力の高さから見て、何かを嗅ぎつけられてもおかしくはない。
オーバーシアーとしての活動には細心の注意を払う必要がある。
《与太話にしちゃ随分と笑える話だ。あんたからそんな話が聞けるとはね》
《俺も困惑している。仮に彼女がコーラル波形だというのが事実だとしたら……》
《ビジターの友人と、あたしたちの使命の間で悩んでるわけだ?》
《それは……》
《……図星かい。あんたこの仕事向いてないよ》
俺の使命はコーラルを焼き尽くすことだ。それは今も変わらない。
617も618も619も620も、そのために死んでいった……いや、俺が殺した。
確かに俺は621が仕事を終えたら真っ当な人生を買い戻せると言っているし、
本当にそうなれば良いと思っている。
そのためにコーラルを焼き尽くす……621の友人を殺すという矛盾。
ふと、既にエアがコーラル波形であるという事を疑わなくなっている自分に気付く。
確かに年は取ったが……随分とヤキが回ったものだ。
《ウォルター、あなたにお話しておきたい事があります》
エアから秘匿回線での通信が入った。
こんなところにまでハッキングできるのかと肝を冷やしたが、
彼女をもってしても長時間の通信は難しいらしい。
とはいえ、セキュリティレベルを更に上げる必要がありそうだ。
ものの数十秒という短時間で彼女が伝えてきたのは、
オールマインドという傭兵支援システムとその企みについて。
コーラルリリースが何なのかという全容は不明だが、あまりにきな臭い。
ストライダー防衛戦のときのC兵器や、BAWS工廠の正体不明機の出処としては
あまりに辻褄が合いすぎている。
事態は思っていた以上におかしな方向に向かおうとしているようだ。
《オールマインドが仕掛けてくるとしたらここだ。もしもの時はお前が621を導いてやってくれ》
《もちろんです。それにしても……》
《……? どうした?》
《いえ、最初は幻聴扱いされていたのに、随分と信用されたものですね》
《……部下が大事にしている友人を無下にするほど、薄情ではないつもりだ》
そうでなければこれほど悩まずに済んだものを。
それに、いよいよコーラル集積地点への到達にも目処がついた。
俺は決断しなければならない。
待ち伏せしていたV.IIスネイルをオールマインドの手引で撃破した621が、
そのまま逃げ帰ってきたのは、思わぬ誤算だった。
アーキバスはコーラル集積地点に待ち構えていたC兵器に相当手を焼いたらしく、
ヴェスパー部隊もV.IとV.IVを残すのみとなっていた。
スネイルが居なければ政治的な動きもろくにできまい。
それでも制圧は成ったのだからもう後には引けないのだろう。
今はバスキュラープラントの建設を急いでいる。
搾取しようと乗り込んできた企業がどの陣営もボロボロになっているのは
因果応報と言うべきか、しかし今は都合が良い。
オールマインドの計画には何としても621とエアが必要らしく、
621は追手を蹴散らしては逃走を続けている。
その邪魔が減るだけでも、ニ大企業の疲弊には大きな意味がある。
こちらにもオールマインドの追っ手が差し向けられるようになった。
逃亡生活というのはあまり心地の良いものではない。
それにしても企業の意地というものか、バスキュラープラントの建設速度は異常だ。
解放戦線が散発的に妨害を繰り返しているが、これも効果は無いと言って良い。
ヴェスパー部隊が半減した分を、オールマインドの無人機が埋めているらしい。
《もしものときはカーラの元に身を寄せてください。ザイレムに向かっているはずです》
ザイレムを浮上させるというのか。となると狙うはバスキュラープラントか。
点火剤としてはあまりに破格というものだ。カーラも思い切った事を考える。
《なぜ俺を助ける?》
《なるほど、理に適っているな》
《……冗談です。私はあなたにも死んでほしくはありません》
《……そうか。感謝しておく》
《私はレイヴンだけではなく、あなたからも多くを学んだのですから》
これは、怒っている……いや、拗ねているのか。
当初からすると冗談を言うほど情緒も成長しているようだ。
手段を選ばない俺から学んでその判断になるというのは解せない……が、悪い気分ではない。
数カ月ぶりに621の顔を直接見ることができた。
心なしか621の情緒も起動時よりも豊かになっているようだ。
友人と良い影響を与えあっているのだろうと見て取れる。
《私だけ音声なのが残念ですが》
「そうかい、いつか義体でも作ってやるとしようか。とびきり美人のね」
《ありがとうございます、カーラ。体を動かして活動する感覚にも興味があります》
バスキュラープラントも完成が近い。
ザイレムが動き出せばもう俺の目的も隠し通せなくなるだろう。
しかし俺は……。
そう考えてしまった時、ようやく気付いた。
俺はとっくに決断していたのだと。
「ウォルター、そろそろ腹は決まったかい?」
「そうだな……いつまでも隠したままではいられない」
裏切るにしても、筋を通すべきだろう。
何しろカーラはルビコン以前の俺を知る唯一の仲間だ。
「悪いが俺はここで降りる。お前の邪魔はできるだけしたくなかったが……すまんな」
「直接会ってまで話というからどんな話かと思えば……そうかい、ならここでお別れだね」
「……ああ、残ね「なんて言うとでも思ったかいこの間抜け!」……なっ、何を」
「どんだけ付き合いが長いと思ってるんだい。古巣で過ごした時間の比じゃないだろうに」
「無理して非情に徹してた耄碌爺が、情に絆されて使命を捨てる。コテコテだが笑える話じゃないか」
「ってのは半分冗談だが、コーラルを燃やし尽くすってのは連中に自我があると思ってなかった頃の話さね」
「半分……? いや、では今は違うというのか」
「自我があるって分かってる連中を焼き払うってのは、あんまり気分がよろしくない。
それに自我があるなら連中の協力を得られる可能性だってある」
「否定はしないが、あまりにも見通しが……」
「だがね、その可能性を捨てちまうってのは……ちょっとばかし笑えないのさ」
浮上したザイレムは、見事に稼働前のバスキュラープラントを破壊した。
アーキバスの艦隊襲撃にもヴェスパー部隊の襲撃にも耐え、
イグアスを取り込んだというオールマインドもなんとか退ける事ができた。
まさかエアがコーラル機体のACを持ち出すとは思っていなかったが。
「さて、これからどうするさね?」
《そうですね、まずはゆっくり休んでからですが……義体がほしいです、カーラ》
「おや、真っ先にそれが来るのかい? 随分と欲張りになったもんだ」
《カーラから学んだものも多いんです》
「ははっ、そりゃ一本取られたね」
アーキバスはバスキュラープラントの再建を諦めてルビコンから手を引くようだが、
コーラルの危険性が無くなったわけではない。
自我を持ち情報伝達が可能で自己増殖する可燃物という厄介極まりない性質。
真空中で高圧力状態になると爆発的に増殖するという性質も健在だ。
コーラル波形同士では直接交信ができるわけでもないというのが、
この問題を余計に難しくしている。
だが、それは今すぐに解決しなければルビコンが滅ぶというわけでもない。
まずは猶予がいつまであるのか調査、計算する事から始めるか。
「621、お前はどうする。仕事が終わった今なら、何をするのも自由だ」
私はゆるそう
それはそれとして変異波形はナガイ教授知ってたし第一助手の研究テーマからしても技研はエアのような存在を認知はしてた気はする
ありがたい…
4週目にはこうなってほしかった……
どのルートでも邪魔してくるじゃんあいつら!
そこを
621
エアちゃん
スーパーごす
ラスティ
で撃退する最終ミッションだな…
多分めっちゃくちゃ笑顔だよ
無茶苦茶楽しかったなー!
それはそれとしてあの武器使いたいし使われたいから持って帰って研究に回してもらお!
くらいはする
トルケルかよ
素晴らしい
ケンイシカワ助手はブルーベリードールしろ
この621達のこれからの物語も面白そう
豊作すぎて本当にACなのか疑わしくなってきた
もしかして俺はまだ幻覚を見ているのか
10年ぶりの新作で出来も傑作と言っていいものがお出しされたんだ
盛り上がりもしよう
もっと欲張れ
ウォルターは 621はエアのためにオーバーシアーに入ったと思っている
エアは レイヴンはウォルターのためにオーバーシアーに入ったと思っている
こんな感じだと嬉しい
名前をつけてあげたいウォルターと621のままでいいレイヴンもアリだ!
下手に情を持たないように名前をつけてなかった(がっつり入れ込んでる)ウォルターいいよね…
いや…殺した後にも見てもらう…
ウォルターは全て理解したら全装備と財産を託して後は自由だ…ってして自分はコーラル焼却を目指す気がする
AMちゃんハッピーエンドをお前が書くんだよ!
やっぱ大団円欲しいわ!