赤く染まったルビコンの焼けた空と対照的に、ハンドラー・ウォルターの表情は真っ青だった。
今回のウォルターの猟犬は優秀だった。戦火渦巻くルビコンで実績を重ね、惑星封鎖機構部隊とスッラを退け、
ウォッチポイント最深部の制御デバイスまでたどり着いてみせたのだ。
あとはそのデバイスを破壊し、帰還するだけ、そのはずだった。
幼い日、ルビコンを離れる避難船の窓の外から、ウォルターはアイビスの火を目の当たりにした。
星を覆いつくさんばかりのコーラルの奔流。 まだ幼かったウォルターは、その光景をどこか美しいと思った。その赤い幕の下で、夥しい数の人が焼かれていると知らずに。
その赤い火が、半世紀ぶりにウォッチポイントから----- 621の現在地から、溢れ出した。
半世紀前の大火とは比べるべくもない、小規模で局地的な隆起。 しかし、人を----例えACの中にいる強化人間であろうとも----殺すには十分すぎる致死量だった。
かろうじてACの機体反応は残っているものの、爆発と同時に途切れた621との通信は復旧する兆しがなかった。
こんな形で自ら、殺してしまった。
しばらくフラットのまま動かない621の通信音声波形を睨んでいたウォルターは、端末を閉じて深く溜め息をついた。
また一人、自分のせいで死んだ。617たちの犠牲はすべて無駄になった。
一からやり直そうにも、617たちを買い付けた強化人間のブローカーは621の取引を最後に蒸発した。
そもそも、もはや別の強化人間の人生を買い取る経済的余裕はウォルターにはなかった。
ウォルターは懐から一枚の写真を取り出す。 幼き日の自分と、『友人』たちが映った写真だ。
フィルムとして残ったのはその一枚だけ。 他にウォルターの過去を、縁を映した画像データは、全てコーラルの電子干渉で失われた。
自らの人生を、『友人』たちに報いるために費やしてきた。だが、もはやそれを叶えることは不可能になった。
笑いがこみあげる。これを道化と言わずなんと言う?
カーラは『あんたはもっと笑ったほうがいい』とよく言っていた。
これからは彼女の組織に身を寄せ、コーラルで脳を麻痺させながら余生を過ごすか。
半ば自棄になりかけていたウォルターを、コンピューターの無機質な音声が現実に引き戻す。
「強化人間C4-621より通信が入りました。通信回線を立ち――」
コンピューターが言い終わるより先に、ウォルターは反射的に端末に表示されたACCEPTを押していた。
「621……621なんだな……!?」
「他に、誰がいる……? これより、帰還する…… ごほっ…… ああ、すまないが…… 応急措置の、用意を……」
「ああ……ああ、当然だ。 俺は今座標573-769に待機している。すぐに戻って来い」
「ハンドラー・ウォルター…… 不躾なことを聞くが…… 泣いて、いたのか……?」
「……余計な詮索は要らん、621。だが……お前が生きていて、嬉しく思う」
「そう、か…… 私も……あなたの声がまた聴けて……安心、した……」
ウォルターはマザーシップのコックピットから立ち上がり、治療ベイの調整に向かう。
『友人』たちの写真が震える手から離れ床に落ちたが、ウォルターはそれに振り返ることはなかった。
621が無事だと分かった時も考えるとめっちゃ嬉しそうだよねって話
感情ないとはいえ普通に会話できるのかそれとも最低限の意志疎通しかできないのかどうなんだろ
少なくとも覚醒とかは脳心部コーラル管理デバイスに頼ってるっぽいし
遠隔操作で格納庫の装置弄くりまくってとっかえひっかえアセンブルしたり
塗装したりエンブレムつくったりアリーナ接続したり傭兵ライフエンジョイしてたらちょっとかわいいと思う