「……えっ、なに……?」
昼休みの食堂。昼食を何にしようか悩んでいた時、担当のマチカネタンホイザとネオユニヴァースが唐突に目の前に現れ謎の名乗りを上げた。
「“半分こ同盟"……? なんだそれ」
「よくぞ聞いてくれました!」
タンホイザがむんと手のひらをこちらにつきだす。
「私たち半分こ同盟は! 1つを2つに! 楽しさ2倍に! お得に倍々! 幸せいっぱい!」
「みんなで、“共有"をするよ。感覚だけに留まらない……感情も、思い出も、『分かち合う』ができるね」
「そう! 半分こは素晴らしい! 半分こはとっても楽しい! 半分こすればみんな幸せ! みんなハッピー!」
「だから、『広める』をしたいんだ。個々だけでなく、普遍的に――“半分こ"の素晴らしさを。『伝える』『広める』。それが『わたしたち』のミッション」
「そう、その使命を受けた私たちが! 半分こ同盟です!」
「半分こ、か……」
そう言って思い出す、マチカネタンホイザと出会った日のことを。商店街で残り1つだった鯛焼きを半分こして食べた、あの味を。
そう言って思い出す、ネオユニヴァースと仲を深めたあの日のことを。彼女から半分こを提案され差し出された、あのバナナの味を。
……なるほど、確かに2人は半分こに縁がある。意外な共通点。半分こが好きな者同士、気が合い惹かれ合ったのだろう。
「はい、という訳でトレーナー! 今から半分こ! しませんか!?」
「えっと……何を……?」
タンホイザから急に半分こを提案される。しかし、肝心の半分こする物が何も無い。一体何を半分こしようと言うのだろうか。
「むっふっふー! この名探偵マチタンにかかればお茶の子さいさい! ズバリと当ててしまいましょう!」
怪しげな鳴き声を上げるタンホイザが、ビシッと俺を指差す。
「……!」
「お昼休みのこの時間、お腹も空いてくる頃合いでしょう。そんな時間に食堂に来ているということは、まだお昼は用意していないということ!」
したり顔で推理を披露する名探偵マチタン。
「そして! 私たちが現れる直前……! あなたはメニューの前で立ち尽くしていましたね? そう、それはつまり! トレーナー! あなたが、お昼何にしよっかなー? って悩んでいたということの証左なのです!」
「……確かに……そうだな。タンホイザ……お前の推理通り俺は、お昼に何を食べるか悩んでいた……。ハンバーグ定食にしようか、いやラーメンも捨てがたい……でもカツ丼という選択肢もありか……。と、お昼何にしようか、俺は悩んでいた」
「むふふ、どう? どう? 流石の推理力でしょう!? むっふっふー……♪ やればできる子マチカネタンホイザ、むんっ♪」
「完敗だよ、名探偵……だが、だからと言ってどうした? 俺がお昼を悩んでいたとて、それが一体何になると言うんだ!」
「むんっ!?」
「俺がお昼何にしよっかなーって悩んでいたことが、どう“半分こ"に繋がるというんだ?」
「“LUNC"を共有――『選べない』なら『全部食べる』をすればいい――」
「――なん、だと!?」
「つまり、お昼を“半分こ"だね」
「あっ、ユニ先輩それ今私が言おうとしたのに!?」
なるほど……お昼ご飯を半分こ――つまりシェアし合えば、ハンバーグ定食もラーメンもカツ丼も……全部食べられる……。
その発想は、無かった――。
「うぬぬー……名探偵のキメセリフをユニ先輩に取られてしまった……。って、そうそう。半分こですよ半分こ! 私がハンバーグ定食を頼んで、ユニ先輩がラーメンを頼んで。それからトレーナーがカツ丼を頼んで……! それからそれから、みんなでシェアすれば! 全部食べれてハッピーハッピーでしょう!?」
「確かに……一理あるな……」
「……! “LIMT"が見えたよ。活動可能時間が『想定より下回る』前に、“ORDR"しよう」
「あっ! ホントだこんな時間! トレーナー、早く注文しに行こ!」
マチカネタンホイザに手を引かれる。彼女たちに急かされるままに、ああ、と応え食券を買いに行く。
「トレーナー、6つの『兄弟星』が生まれたよ」
そう言って、ネオユニヴァースがお皿を持ってくる。
「取り分ける用の皿を持ってきてくれたのか?」「アファーマティブ」
「おー! ありがとうございますっユニ先輩♪」「『どういたしまして』だね……♪」
楽しそうにお喋りをする2人。こうして2人が仲良くしているの見ていると、何だか心の中が温かくなるようなそんな気分になる。2人とも、どこかフワフワしているからだろうか。ゆるく温かな2人のやりとりは、見ているこちらもほんわかする。
「――あ、ブザー鳴ってますよ! ほら、トレーナー!」
2人のやりとりを眺めている間に、料理が出来上がったようだ。貸し出された呼び出し用のブザーを手に取り食堂の窓口に向かう。
「あ、私たちのも鳴ってる! 行きましょうユニ先輩!」「『同行』するよ」
――いただきます。
「いただきまーす!」「『いただきます』だね」
手を合わせてお昼ご飯に向き合う。
「それじゃあよそいましょー! あっそれ、ほれ」
「ん、カツ丼も3等分に、と」
こちらも、カツを何個かに分けて皿に乗せ、ご飯と卵をいい感じに移していく。
「はいはいっ! ブロッコリー食べたい人!」
「ん」
「はいっユニ先輩どうぞ! あ、にんじんもありますから!」
ネオユニヴァースの分の皿にブロッコリーとにんじんが添えられる。俺の方にもにんじんが1つ。問題なく分けられている。
「“出来た"よ」
ネオユニヴァースが慎重に皿に取り分け終え、こちらに皿を渡す。これは……ほぼ正確に3等分されているみたいだ……!
「それじゃあ改めまして!」
『いただきまーす!』
ぱくり。まずは自分の頼んだ料理から口に運ぶ。うむ、いつものカツ丼の味だ。しっかりとダシが染みていて食べ応えもあって美味しい。ご飯もよく進む。
「むふふ、やっぱりハンバーグはスペシャルな味ですねー……! ふあ、美味しい……美味しい……♪」
「ラーメンを『すする』よ。――…………!! 美味しい、ね……♪」
「……よし、じゃあユニヴァースのラーメンを食べてみようかな……!」
ネオユニヴァースが頼んだラーメンは醤油ラーメン。あっさりと透き通ったスープが美味しそうだ。
――ずずっ。
スープを絡ませながら麺をすする。醤油のシンプルな味付けではあるが、それが良い。あっさりとしていて主張が強すぎず、しかし香味の豊かな醤油スープが麺とよく絡んでなんとも美味しい。しっかりと効いた胡椒のアクセントも素晴らしい。
「美味しいな! 醤油ラーメン……!」
「スフィーラ……! 今、“同期"した? ふふっ『嬉しい』ね……♪」
「わー! 良いな良いな! 私も食べよっと♪ ……んんー! おー!? これはなんともベリデリシャスっ!」
タンホイザもユニヴァースの頼んだ醤油ラーメンに舌鼓を打つ。同じモノを食べて、同じ味に感動して、共有しあって。この“繋がり"が、分かち合える喜びが、美味しさを何倍にも引き立てている。
「……! 『美味しい』ね……! スフィーラ……♪」
「ハンバーグも良いなあ……うん、すごく美味しいよ」
「ですよねー!? いやあ、やっぱハンバーグの特別感って言ったら、もう!」
マチカネタンホイザのハンバーグもしっかり味わう。ハンバーグ定食……美味い……。やはり、“半分こ"をして良かった。どれも美味しくて、素晴らしい。どれか1つじゃなくて、全部を味わえて、本当に良かった。
「……トレーナー。“AUHN"」「……? どうしたんだ、ユニヴァース」
さあ次は俺の頼んだカツ丼の番だ。と思っていたら突然、ネオユニヴァースがこちらに話しかけてきて、口を開けて静止した。……一体どうしたというのだろうか。
「“AUHN"」
「むむっ! なるほど、良いですねユニ先輩!」「えっ何が?」
タンホイザは何か合点がいったようだが、こちらは全然である。彼女は何を求めているのだろうか……?
「んん、わからないんですか? あーんですよ、あーん」
「んんっ!?」
“あーん"というのは、あの“あーん"だろうか?
「“AUHN"」
「……別に、自分のお皿にカツ丼あるんだからあーんする必要なくない……?」
「何を言ってるんですか!? トレーナー!!」
信じられない、とでも言うかのようにマチカネタンホイザに驚かれる。どうやらこの場においてはマイノリティは自分らしい。……いや、至極当然のことを言ってるつもりなのだが。
「“半分こ"に“あーん"は付き物でしょう!? 半分こには“あーん"が! あーんには“半分こ"が! 一口ちょうだいは定番中の定番でしょー!?」
「そうなのか……? いや、でも……」
「……? 何か、“不都合"?」
いや……不都合も何も、ううむ……。担当にあーんをするというのは、ちょっと……敷居が高い。
「んじゃんじゃ、ユニ先輩! まず私がっ! あーんします!」
「ん、アファーマティブ。“AUHN"」
「はい、どうぞ! あーん♪」
ぱくり。タンホイザのハンバーグをユニヴァースが食べる。
「『美味しい』……♪ ……『お返し』だね。“AUHN"」
「あっ、いただきます! あーん♪」
「ん〜♪ 美味しい〜♡」「スフィーラ……♪」
きゃっきゃ。ユニヴァースとタンホイザが楽しそうに戯れる。これは……うん、これはユニヴァースとタンホイザだから成り立つモノであって。友達同士でやるのは華があるが、トレーナーと担当の間柄だとちょっと……。
「トレーナー?」「ほら、トレーナー!」
トレーナーと担当の間柄じゃちょっと――。
「“AUHN"」「あーん♪」
んんんん…………!!
『あーん♪』
「――えーい、ままよ! ほら、あーん!」
「“AUHN"――んむっ。…………! ……スフィーラ……♪」「おー♪」
ネオユニヴァースにカツ丼を食べさせる。あーんをする。ユニヴァースは美味しそうに頬張り、幸せそうに目を細める。
「いいなっいいなっ♪ 次! マチカネタンホイザ! あーん♪♡」
「ううぅむぅ……! ……はい、あーん!」「――♡ ……ん〜♪ 美味しい〜♡」
もうこうなったらヤケである。マチカネタンホイザにもカツ丼をあーんして食べさせる。
……何がそんなに楽しいのか分からないが……ううむ……。
「トレーナー、“AUHN"」「ん? おかわりか……?」「ネガティブ。“AUHN"」
ユニヴァースが、あーんと言ってこちらにラーメンを差し出してくる。……これは、もしかして……。
「ほら、トレーナー!」
いや、流石に担当にあーんされるというのは……。
「“AUHN"」
…………ここに来て今更、だろうか……。観念して、口を開ける。
「ふふっ、スフィーラ……♪ “AUHN"」「あ、あーん……」
かなり照れくささを覚えながら、ユニヴァースの“あーん"を受け取る。
「どう? どう? 美味しい? トレーナー♪」「んっ……うん……美味しい、よ……」
「スフィーラ……♡」「わひゃー! いいねーいいねー!」
はやしたてるタンホイザにジトりと視線を送る。
「……あっ! 今度は私の番!?」「えっ、いや……」「ふっふっふー……! それじゃあ一番美味しい部分をあげなくてはー♪」
楽しげにハンバーグを切り分けるタンホイザ。もう彼女にもあーんされるのは確定のようだ。
「はい、トレーナー♪ あーん♡」「ぅっ……あ、あーん……」
ぱくり。タンホイザのハンバーグを食べる。……悔しいことに、タンホイザに“あーん"されたハンバーグはとても美味しかった……。
「わひゃ〜! えへへ、トレーナーにあーんもしちゃった!」「スフィーラ、だね……♪」「うぅ……」
こちらの気も知らないで楽しげにはしゃぐ2人。俺は気を紛らわせるように黙々と自分の料理を食べるのであった……。
――ごちそうさまでした。
「ごちそうさまでしたー!」「『ごちそうさま』だね」
カラになった皿を前に手を合わせる3人。どの料理も味わい尽くし、すっかりお腹もいっぱいになった。
「いやー、美味しかったですね! いっぱい色んなご飯食べれたし〜」「多種多様なイグジスタンス……どれも『美味しかった』ね……♪」「そうだな」
ふー、と一息つけて水を飲む。分け合ったとはいえ、結構な量を食べてしまった。満足感もひとしおだ。
「そうだ、トレーナー! トレーニング終わったらちょっと良いですか!?」
パチンと手を合わせてこちらに尋ねてくるタンホイザ。
「うん? どうしたんだ?」
トレーニング用品でも買うのだろうか……? まあ特に予定は無いし構わないのだが……。
「トレーナー」
今度はユニヴァースが話しかけてくる。
「面白そうなドキュメンタリー映画がある。だから“PM"に『おでかけ』したい。トレーナーと……。『ワクワク』を共有したいんだ」
「ええっ、ユニ先輩も!? トレーナーとおでかけしたいんですか!?」
「うん」
……ユニヴァースの提案も、別に構わないし付き合えるのだが……。
「いいけど……でも……」
2人の誘いがダブルブッキングしてしまう。タイミング的にはほぼ同時……どちらを優先するべきか……非常に難しいところだ。
「“HUM"……トレーナーと『おでかけ』したい……でもマチカネタンホイザは“ZEER"……デートは遂行して欲しい」
「どうしよう〜」「ぴ、ぴ、ぴ……」
『……あ』
2人して悩んでいたと思ったら、2人して顔を合わせる。……何か、嫌な予感が――。
「それじゃあ――」「なら――」
『――トレーナーを“半分こ"!』
「しましょう!」「だね」
「……ああ、やっぱりこうなるか」
こうして俺は半分こ同盟に午後の予定を“半分こ"されるのであった……。
作中接点皆無だけどかわいいからいいか
かわいいは正義だからしかたないね
こんなのぼくのデータに無いぞ!?
半分こいいよね