部屋に帰ると彼女に迎えられる日々にも慣れて来た。それと同時に、このままでいいのかと現状を疑う自分がいる。
元々広い世界が見たいが自分では好きな場所に行けない、結局ほとんどの時間を自分の部屋で何も出来ずに過ごしていると考えると、ここはサトノの社内より窮屈ではないのか?
だが本人にこれを聞くのは躊躇われた。彼女はきっと自分が迷惑をかけていると考えるだろう、こっちが不自由にさせているというだけなのに。
"どこか行きたいところはあります?"
「うーん……今は特に思いつかないわね」
話しかけるとホログラムが投影され、顎に人差し指を当てて考える様な仕草をする。
最近はネット環境を利用して気になることを検索したり、動画を見て過ごしているとのことだが……。
"一緒に出掛けませんか"
「あら、どこか連れていってくれるの?」
価値があるかは分からないが、色々と触れて経験することに損はないだろう。少なくとも狭い部屋の中で得られる情報よりも有意義にはなるはずだ。
行先は道中話しながら検討すればいいか、支度を済ませて彼女を抱えて家を出る。
"動画を見てるって言ってましたけど"
「最初は新しいレースの映像を見てるだけだったんだけど、おすすめに猫の動画が出てきて「あーーーーーー!!!」
"!?"
いきなりの大声に驚いてその方向に顔を向けて血の気が引く。今一番会ってはいけない相手、サトノダイヤモンドとサトノクラウンだった。
まずいまずいと焦っている間に彼女らは目の前まで駆けて詰め寄ってきていた。
観念するしかないか……。
「もう!トレーナーさん!なんで見つけていたのに教えてくれなかったんですか!!」
「あのねダイヤちゃん、私がトレーナーさんにお願いしたの。外を見て周りたいから黙っててほしいって」
「え、どういうこと?」
──────
これまでのいきさつを簡潔に話すと二人は驚いた様子だった。
「そ、そんなに普通に出かけてたのね……」
"そんなに驚くこと?"
「捜索のためにSNS等でも目撃情報がないか調査していて何も引っかからなかったので、開発部は故障した可能性が高いと見ていたんですが……」
確かにこんな見た目からは想像もつかないほどの機能を持つ機械だ、誰かが写真を撮ってアップしていてもおかしくなかった。
迂闊だったと軽率な行動を恥じると同時に、見つからなかったことを不思議に思う。
まさしく三女神の思し召しと言うやつなのだろうか……。
「……とにかく!もうグループに帰りますよゴドルフィンバルブさん!」
「流石に見つけてしまった以上見逃すことは出来ないわ」
「あらまぁ残念……お世話になったわね、今までありがとうトレーナーさん」
ホログラムの彼女は一礼して姿を消すとサトノクラウンに抱えられていく。このまま行かせてしまっていいのか。
これ以上踏み込むことは越権も甚だしいのは分かっている、それでも心が二人の前に回り込むように足を動かさせた。
"待って!"
「?トレーナーさん?」
"彼女をもう少し預からせてください!"
二人の前で土下座する。もはや大人としては最低の姿だろう。
でも、AIだとしてもゴドルフィンバルブもウマ娘なのだ。ウマ娘を悲しませてはトレーナー失格だ。
「え、ちょ、なにしてるのトレーナー!?」
「頭を上げてください!」
→"彼女にもっと世界を見せてあげたいんだ"
"彼女が必要なんだ"
「……!トレーナーさん……」
「どうしましょう、ダイヤ……」
「……ちょっと待っていてください」
なにか決心した様子でスマホを取り出してサトノダイヤモンドがそばから離れる。
5分ほど誰かと電話をして、満足げにこちらに戻って来た。
「お待たせしました、とりあえずゴドルフィンバルブさんは一度開発部に帰ってもらいます」
"そんな……"
「もちろんちゃんとお返しします、先ほど電話で学園のトレーナーにモニターになってもらうよう話をつけて来ました!」
「はぁ~……ダイヤ、また無茶を言ったわね……」
「元々の使用目的からは外れてないから大丈夫!一度持ち帰るのは機能の向上のためです、なので安心してください!」
なるほど、どういう改良をするのかは分からないが今より良くなるなら彼女にとってもいいだろう。
それにモニター……モニタリング目的なら今までのようにコソコソする必要もなくなる。こちらはただワガママを言ったようなものなのにここまで機転を利かせてくれるとは。
"ありがとう、サトノダイヤモンド"
「いえいえ、一応期限付きではありますが十分な期間を取ったのでそれまで女神さまをよろしくお願いしますね♪」
「私達も時々様子を見に来ても?沒問題?」
"もちろん!"
サトノグループには迷惑をかけるが、ゴドルフィンバルブとの日常がまだ続くと思うと感情がこみ上げる。
彼女も同じ気持ちだったのか、帰る間際の言葉はとても感情的だった。
「その、ありがとう……トレーナーさん。これからもよろしくね……!」
その時、ふと閃いた!
このアイディアは、担当ウマ娘とのトレーニングに活かせるかもしれない!
担当ウマ娘の成長につながった!
やる気が上がった
体力が30回復した
スタミナが20上がった
賢さが5上がった
スキルPtが30上がった
「まき直し」のスキルLvが1上がった
ゴドルフィンバルブの絆ゲージが5上がった