今日は初のG1である日本ダービーに向けての宣材写真の撮影日。撮影中、アイツはずっとニコニコとこちらを見ているものだから落ち着かなかった。
「カッコいいなぁ……うん。すごくカッコいい……」
「どうした? 私の姿に見惚れちまったか?」
「あぁ! もうこれ以上ないってくらいに惚れた! 今までよりもずっとだ」
「……そりゃ、よかったな」
ガキみたいに目を輝かせて勝負服の私を見つめるアイツを見て、なんとももどかしい気持ちになる。ここまで従順に振る舞われると逆に調子が狂うのだ。
「あぁ。ただし、それなりの代償は払ってもらおうか。そうだな……グラウンド10週でもしてもらおう」
「分かった! 走ってくる!」
躊躇なく飛び出そうとするアイツの肩を掴んで引き止める。命令したのは私の方だが、いくらなんでも迷いがなさすぎる。自分というものがないのだろうか。
「オイオイ、この暑さの中そんな事したらぶっ倒れるに決まってるだろ。私に従順なのはいいが、ちょっとは自分で考えて動け」
「でも、担当のためなら何でもするのがトレーナーだよ」
「はぁ…………クソっ。分かった分かった。余計なこと言った私が悪かった。ほら、好きに撮れよ」
そう言うとアイツは顔を輝かせてスマホを取り出す。いつからだろうか、この従順さに振り回されるようになったのは。
「ありがとう! シリウスの写真、待ち受けにするよ!」
「そりゃどーも……撮影は終わりみたいだな。帰るぞ、トレーナー」
「おや、シリウスじゃないか。勝負服、似合っているな」
「これはこれは皇帝サマ、わざわざ不良学生にご挨拶とは大変だな」
帰り際に出会ったのは勝負服姿の生徒会長サマ。周りを威圧するようなその姿には彼女の傲慢が詰まっているように思えた。
「まぁまぁ、落ち着いてシリウス。ルドルフ、挨拶ありがとう。いつかシリウスとレースで戦うことがあったら、その時はよろしくね」
「私もその時を楽しみにしているよ。では、私も撮影があるので失礼するよ」
いつものように笑顔で対応するトレーナーに苛立ちを覚えながらも、ここで言い争いをしても不毛だと思い、撮影に向かうルドルフを見送る。
「いやぁ、それにしてもマント付きの勝負服もカッコいいよなぁ……」
「……あ?」
その独り言を聞いて、イラつきが頂点に達した。コイツ、見た目が好みなら誰にでも尻尾を振るのかよ。
アイツの肩を掴んで壁に押し付けて問い詰める。すぐに自分の行動が情けないことに気づくが、答えを聞くまでは離すつもりはなかった。
「別にヘコヘコはしてないじゃないか……それに、いつだって君のことを1番に考えてるさ。ただ……マントってカッコいいじゃん? シリウスにも着てほしいなぁって……」
「はぁ……もういい。いつか着てやるよ。いつかな」
「いいの!? その時はまた写真撮らせてよ」
「はいはい。お好きにどーぞ」
私はなんでこんなにもコイツに甘いんだ? この回答に心の底から呆れているはずなのに、どこか安心している自分もいて、ますます落ち着かない。私はコイツをどうしたいのだろう。
「シリウス、そろそろ離してほしいんだけど……」
少しだけ頭によぎった邪な考えをすぐに追い払う。どういう状況であろうが、コイツに手を出したらこっちの負けな気がする。
「仕方ねぇな。ほら、これでアンタは自由の身だ」
「ふぅ……ありがとう」
先ほどまで力で押さえつけられていたというのに、トレーナーはいつも通りニコニコと私の後ろについて来る。コイツにもし尻尾とウマ耳がついていればピコピコと激しく揺らしているだろう。
「ほら、早く帰るぞ」
「はーい」
飼い主にも飼い主なりの苦労がある。そのことを痛感しながら、見えないリードを引いてトレーナーと部屋へ戻るのだった。
呆れた顔しながらもめちゃくちゃ面倒見が良さそうなシリウスが好きです
異常なほどに従順になってドン引きさせたい
>異常なほどに従順になってドン引きさせたい
分かるよ…
凱旋門賞のシナリオ出るしそこに合わせてワンチャンあるとは思う
会長。
ルドルフのトレーナーに変えるべきだ