ウマ娘をいともたやすく酩酊状態にさせる謎の植物、『ウマタタビ』が学園内に流通している。なんでも、一嗅ぎすれば半日は酩酊状態から回復しないほどに強力な植物らしい。なんてふざけた名前だ
トレーナーはそれに注意し、各自担当の安全を確保してくれ、と。なぜか厳重にマスクをつけたたづなさんからのお触れだった
正直、そんな植物があるなんて知りもしなかったし信じられもしなかったが………それは確かに、学園に影響を及ぼしていた
「うにゃっはっは〜。とれーなーさん、もっとなでてなでて〜」
………そう。今この時のように、確かに
「ネイチャ、その………かれこれ15分ほど撫で続けてるんですが………」
「もっと!!!!!!!!!!」
「あ、はい。わかりました」
俺の担当……ナイスネイチャがウマタタビの被害にあったと聞いたのは、通達が来てすぐのことだった
すぐに現場に駆け付けると、そこには同室の子と一緒になってハイテンションにマーベラス!!!!と叫び続ける愛バの姿が
あまりの事態に一瞬眩暈がしたが、とにもかくにも放置はできない
そのまま連れて……行こうとしたが、何分酩酊状態で話が通じなかったため、仕方なく小脇に抱えるようにして強制連行、トレーナー室へと場所を移した
しかしそこで彼女がとった行動は、『なでなでを要求しまーす!!』というまた突拍子もないことで
そして、今に至る
15分………いやもうそろそろ20分ほど、顔を赤らめ酩酊したネイチャの頭を撫でっぱなしだ
手が頭を撫でるたびに、彼女の綺麗な髪が揺れる。心地よいところに手が当たるように、頭をぐりぐりと押し付けてくる
なんか……うん。彼女には絶対に言えないけど
実家で飼ってる猫思い出す。甘えん坊スイッチ入るとこんな感じだったな……元気してるかな
「ほらほら、集中してないぞー」
しかし、ネイチャが酔うとこんな感じだったとは。なんとなく、本当に根拠のない想像だが彼女は将来酒に強くなりそうなイメージだったのでこういう姿は想像できなかった
これ将来大丈夫かな……とまったく明後日の方向の心配はいったん置いておいて
「んー。ありゃりゃ、こりゃどうも〜」
ケタケタ笑いながら水を受け取るネイチャの姿はどこをどう見ても酔っ払いそのもので。てか、絡み酒だこれ
こんな姿、商店街の皆さんに見られたりしたらどうなることか。やはり今日一日目が離せない
まぁぶっちゃけそんな心配せずとも、ネイチャのほうからくっついてくるからなんとも
「ぷっはー!!!染みるぅ!!!」
「ただの水だからね?」
飲み方が熟練の酔っぱらいのそれなのよ
「ほれほれ、トレーナーさんも一杯どうぞ」
「いや、俺は」
「ネイチャさんの水が飲めないのかー!!!!」
何とか落ち着かせないと、と頭を捻る。このペットボトルをうりうり押し付けてくる妖怪をなんとかせねば
えーとえーと………
「ほ、ほら。それだと、間接キスになっちまうぞ?」
あ、やべ。これ悪手だ
口を開いてからやらかしたことに気付くが、もう遅い。ネイチャの反応が怖すぎる
だけど、そこで返ってきたのは………想定外の反応だった
「………ふぅん?」
ニタァ、と。さっきまでのケタケタ笑いとは打って変わっての笑い方
ぺろっと舌なめずりするその姿は、なんというか、その
「い、いやほら。ネイチャが嫌なんじゃないかなって思って」
「学生相手にそんなこと意識するんだー。へぇ、そっか〜」
にやにや、にやにや。彼女の笑みは止まらない
「いや、だからそうじゃなくてだな………」
「本当に?じゃあ………」
ネイチャは再び、一口水を飲んで
その飲みかけのペットボトルを差し出してきた
「本当に意識しないかどうか、試してみる?」
これはどう返せば正解なんだ。考えれば考えるほど、考えうるすべての回答が危険牌に思えてくる
普段ならともかく、今のネイチャは正常じゃない。というか、何の拍子になにをしでかすかわかったもんじゃない
ペットボトルの飲み口を見る。そしてその視線は、自然と彼女の唇に向いて………
「………………」
思わず息を飲んでしまった自分に、呆れてしまった
「………ネイチャ」
「………………ん」
そして、そのペットボトルにそっと、手を伸ばし
「………ネイチャ?」
伸ば、し
「………………………………………すぅ」
「………えぇ」
ペットボトルを差し出した姿勢のまま、彼女はまさかの、夢の中に旅立っていた
なんという器用な真似を。そのうえで、その顔は何とも心地よさそうで
思わず崩れ落ちそうになる。俺の葛藤は何だったんだと
「………そもそも」
葛藤した時点で、負けかもしれないけど
そっとペットボトルを手に取って机に置き、彼女を仮眠用ベッドの上に運ぶ
これは、一つ教訓ができた。もし将来彼女と酒を飲むことになったとしたら、その時はしっかり様子を見ておかねば。ブレーキが利く範囲で飲ませないと、大変なことになる、と
むにゃむにゃいいながら眠るネイチャを見て、ひとまず安心のため息をついた
あとは、眠りから覚めた彼女がウマタタビの効果から逃れていることを祈るばかりだ
「さて、これでなんとか」
……視線が、泳いだ
その先にあるのは、ペットボトル。先ほど彼女が口をつけたものが、机の上にあって
まだ蓋もしていないそれから……何故か目が離せなかった
何を考えているんだ俺は、と。顔を叩いて正気を引き戻す
ペットボトルには蓋をして、と
ネイチャが起きるまで、集中して書類仕事でも進めておこう
そう心に決めて、俺は事務デスクに向き直った
その後のことは、まぁ蛇足だが
目を覚ましたネイチャが、過去最大級の絶叫を発して部屋を飛び出してしまい
同室のマーベラスサンデーからネイチャが部屋に籠城してて出てこないという通報を受けることになり、マチカネタンホイザ以下数名の協力を得てなんとか引きずり出すための作戦を練ることになるのだった
そして毎回翌朝に後悔するけどまたやらかすまでがワンセット
1度発症すると抗体で二度と発症しないという
なんとも都合のいい効果なのだ!
ウマタタビだ
ヒソヒソ…テイオー世代(?)よ…
黄金闘士かよ
にゃんにゃんアイランド勢の子が危ない!
そこにはニャンごろするタキオンの姿が!