出張で離れていたため、1週間ぶりのトレセンである。やはり、慣れた環境というのは安心感を覚える。
恥ずかしい話、担当ウマ娘に会えないという寂しさを感じていたのもある。彼女は自立している子であるから自分がいなくても変わらず練習も業務もこなしているだろうから、大人である自分がこんな調子では情けないのだが、それでも彼女との日常というのは思っていた以上に自分に大きな影響を与えていたようだった。
ガチャリ、と小気味いい音を立てて扉が開く。やや重厚感のあるこの生徒会室へと繋がる扉を開ける感触も懐かしい。彼女に会うことは事前にメッセージで知らせていたからか、生徒会室には俺の担当ウマ娘にして生徒会長、シンボリルドルフただ一人だった。ひょっとすると、他の役員は気を遣って生徒会室を離れているのかもしれない。
「久しぶり。ルドルフ、帰ってきたよ」
「そうだな……本当に……本当に久しい気がするよ。しかし、改めて見ると……愛くるしいな、君は」
彼女の指にこちらの指が一本一本絡め取られていく。何故か後ろからこちらの耳元に囁く彼女はまるでいつもと違う。……なんかめちゃくちゃ近いし。
「ルドルフ、もしかしてだけど疲れてる?」
「あぁ。君に一週間も会えなかったのだからね。疲労困憊さ。それに、病もある」
「病気……!? どこか悪いの?」
「ああ。恋の病さ。つい3日ほど前から自覚症状が出てね」
彼女は一体何を言っているんだろうか。しかしいくら言動が支離滅裂であっても彼女は容姿端麗、こちらとしてはドギマギしてしまう。
「人生でこれほどまでに冷静なことはなかったよ、トレーナー君。獣というものは狩りのときこそ思考が研ぎ澄まされるんだ」
「まずは離してくれないと……話もできないよ」
なんかいい匂いと柔らかい感触。これ以上は色んな意味でアウトな気がしてならない。対話は望めなさそうだが、力で引き剥がせるものでもない。
もしかすると詰みと言うやつかもしれなかった。彼女の指が俺の体をくまなくなぞっていく。
「さて……どこからいただくとしようか。つま先から頭まで……まずは口かな……この愛くるしい耳でもいいな……」
「どうしちゃったんだよ! 君はそんなキャラじゃなかったはずだ!」
「皇帝であることと君を求めることは相反することではないさ。一心同体……そう、文字通り一心同体でいいじゃないか」
「心なしか四字熟語も雑だぞ!だ、誰か! 会長がご乱心だ!」
「エアグルーヴたちには明日まで生徒会室へ入らないように言ってある。それに、君だって本気で拒むつもりはないんだろう?」
「それにしたって……あるだろう、こう……段階とか、ムードとか!」
「悪かった!事後報告的に出張のことを話したのは俺の落ち度だ。君なら大丈夫だと思って……」
「一週間だ。この一週間……毎日君のことを思い浮かべながら過ごしてきた。居るはずの存在が忽然と私の世界から消えていた。この寂しさを埋め合わせられるのは君自身しかいないんだ」
気づくと、ソファーに体ごと押し倒されていた。
この状況、トレーナー講習のときに何度も陥らないように言われた、コテコテの展開じゃないか!
「ほんの少し……ほんの少しでいいんだ。それですぐに元通りさ」
「ほ……本当か? このあと出張の報告とかもしないといけないんだが」
「今から夜明けまで、7日間に比べればほんの少しじゃないか。それに、今日はこれ以上君が私以外の人間と言葉を交わすことは許可できないな」
「そ、そんなぁ……」
こちらを射抜く彼女の瞳を見つめて、もうどうしようもないことを悟る。元はと言えば報連相を怠った自分が悪いのだが……
「ふむ。聞こうじゃないか」
「この先、何かあったら抱えずに言ってくれないか。それがどんなものでもいいから。俺も、なるべく全部言うようにするよ」
「……そうか。では、早速言わせてもらおうか。トレーナー君、愛している」
「あぁ……俺もだよ。こんな状況じゃなきゃもっと嬉しかったんだけど」
「さて、これで相思相愛。思いっきり君を堪能できるというわけだ」
「愛の力でも正気には戻ってくれなかったかぁ……」
しかし、"皇帝"のトレーナーを務めることでこちらも図太いメンタルを手に入れている。もうこうなったら彼女が満足するまで付き合うだけだ。
「ふふっ……君の身も心も全部、私のモノだよ」
後日……というか翌朝、正気に戻り顔を蒼くして何度も謝罪する彼女を、他の生徒会役員と協力しながらなんとかなだめたのだった。
トレーナー講習の内容が気になるわ
・トレーナー室のソファや仮眠室のベッドに掛からせたウマ娘と共に居ると負けが確定する
多分そのあたり怠ってたんだろなトレーナー…
😨
キングのお母様…
話を聞きつけてやる気の上がったウマ娘は多かったという