放課後にケイエスミラクルに遊戯に誘われた。今日はトレーニングも無いし、ちょっと仕事の息抜きがてらやってみる事にした。ミラクルがそういう配慮をしてくれたのだとしたら有難い事この上無い。
「せっかくなので、人数がいた方が面白いと思ってヒシミラクルも呼んでおきました」
「こんにちは〜 」
ヒシミラクル。本日のトレーニングに自分が合流するまでは自主トレをしておくように言っておいたはずだが、まあその分トレーニング量を3倍にすれば問題ないか。
「トレーナーさん、酷い事考えてませんか?行っておきますけどわたし、ミラクルちゃんに頼まれて来たんですからね!?」
2倍で勘弁しておく事にした。
ケイエスミラクルの提案にヒシミラクルと自分が頷く。
全員が手札の交換を終えた。自分の手札はまさかのフルハウス。これは初手からついている。
「よし、勝負だ」
「おっ、トレーナーさん自信ありですね〜どうしよっかなー…」
「ところでただ遊ぶだけだとつまらないので何か賭けましょうか」
ケイエスミラクルが突拍子もなくそんな事を言い出した。普段はそんな子じゃ無いんだけど、たまに暴走するよね。
「ケイエスミラクル、賭け事はよくな……」
「やだなぁ、お金じゃありませんよ」
なら安心した。ナカヤマフェスタのように停学の代わりに校内の全てのトイレ掃除を半年やらされる事になったら辛いのは本人だ。
それにケイエスミラクルが危ない遊びを提案するはずがない。一瞬でも疑ってしまうなんてどうかしていた。
「ケイちゃん?」
何言ってんだ。大丈夫かこの子。思わず彼女の額に手を当てるが、熱は無く、「ははっいきなり触るなんて大胆だなぁ」といつもの余裕げな態度を崩さない。というか俺が勝負に出るのが確定してからそんな提案をするのか。
「はい、このチップの一つ一つがトレーナーさんの人権です」
チップまで用意してるなんてケイちゃんは気が効くなぁ。早く正気に戻さないと。
「はい、おれはストレートフラッシュです。人権貰いますね」
有無を言わさないらしい。このままでは押し切られる。ケイちゃんの首筋をよく見ると何かが刺さっていた。あれは最近アグネスタキオンが校内で販売して無人島送りになった『素直になる薬&かんたん注射キット』だ。ちくしょう。終わりだ。
ヒシミラクル。彼女とおれが同じ場所にいるだけでそこに奇跡が発生する。この原因不明の特異な現象を利用すれば、トレーナーさんをポーカーでボコボコにしておれのものにする事は容易。
「いただきますね、トレーナーさん」
「あっわたしロイヤルストレートフラッシュだ〜」
そんな馬鹿な。
そうだ、何も奇跡を起こすのがおれに限定されているわけではなかった。南無三。思わぬ伏兵、見落としだ。
このままではヒシミラクルにトレーナーさんを取られる。休日食べ歩きデートに連れて行かれてしまう。
気のせいかヒシミラクルが怯えているように見える。トレーナーさんの方を見るとヒシミラクルに対して威圧するような眼差しだ。『覚悟はいいんだな?俺はできてるぞ』と言いたげだ。彼はヒシミラクル相手だと時々鬼教官のようになる。
「え、えーと…明日から、その日初めてミラクルちゃんに会う時に挨拶と同時に頭を撫で撫ですること!最低1分間です!」
「は?」
「えっ」
ヒシミラクルの口から告げられたのは思わぬ内容だった。
「い、いや〜ミラクルちゃんには普段からお世話になってるし…というかトレーナーさんの報復怖いし……」
そうだ。今日からおれはトレーナーさんになでなでされるんだ。ヒシミラクルの予想外の気遣いにはたいへん感謝だ。しかし本来ならおれがポーカーに勝利し、トレーナーさんにリアル囁きASMRを施す予定だったので、少し物足りなさを感じる。支度を終えてふと目線を動かすと、ルビーと目があった。
「おはよう。起きてたんだ」
「……おはようございます」
ルビーは少し戸惑っているような表情だ。よく眠れなかったのだろうか。
「……朝から機嫌がとても良いですね」
「え?」
ルビーがこちらを見る。機嫌が良い?
「おれが?」
「鼻歌……聞こえた気がしましたが…」
気のせいですかねとルビーが視線を逸らし自分の支度を始めた。
鼻歌──────言われてみれば、やっていた。完全に無意識だった。
「おはようございます。朝からこっちにいるのは珍しいですね」
おはようと挨拶が返ってくる。おれは好機だと思い、例の約束を持ち出す。
「はい、どうぞ」
「え?」
「撫でないんですか?人権ですよ」
人権ですよの意味が自分でもわからなかったが、少しからかってみたくなった。
人目もあるこんな場所で担当ウマ娘と過度なスキンシップを取るのは、大人のトレーナーさんにとっては中々に羞恥心を煽る事であろう。ポーカーに負けて思い通りにできなかったので、せめてこれくらいは楽しみたいというよくない心がおれには芽生えていた。
躊躇なくなでなでが始まった。思わずへっ?と少女のような声を出してしまい、慌てて俯く。
「と、トレーナーさん、みんな見てますよ」
「人権だからなぁ」
人権だからの意味がわからない。不味い。なんだこれは。とてもドキドキする。確か約束では最低1分間とヒシミラクルが言っていた。そろそろ終わりだろうか。
「今30秒くらいかな」
まだ折り返し。頭がぐるぐるまわる。汗が止まらない。意識が遠のく────────
「なんちゃって!薬のせいとはいえ、大人を揶揄った罰にお仕置き…ミラクル?」
そこから先の記憶はおれには無い。
「ケイちゃーん!!!!!!!!誰か!救急車を!!!!!!!!!!!!!!!」
ケイエスミラクルはとても安らかな表情で眠っていた。
>「賭けるのはトレーナーさんの人権です」
本当に何言ってんだ!?
白々しい
暴食のミラクル
怠惰のミラクル
本来のやりたかったこと的にはお願い事を何でも聞くぐらいの意味合いだな…
ダブルミラクルだからこれで済んだが下手な奴に持たせるととんでもない事になりそうだ…
外国に国籍を移すとか、メジロシティ移住とか、お酒もお経も禁止とか、金輪際64とプレステの同期でありながら脆かったりアスペクトが貧弱だったりで売れずに敗れて消えて行ったゲーム機以外は禁止とか……