とうとうVRウマレーターの新機軸ソフトが完成した。
これは我がサトノグループ・ソフト開発部門の技術全てを注ぎ込んだ革新的な代物だ。
現実に近い体感を味わえるVRソフトは既に他社によって開発され、市場にも出回っている。
しかし我々の開発したものはそれらとは一線を画する。
VR内で行った事が実際に肉体に影響を与える機構と連動しているのだ。
これにより、仮想空間でのトレーニングを肉体に反映させることが可能となった。
だがマスターアップはもう少し先。搭載したAIが成長するまでの時間が必要だ。
ウマ娘の育成に関する知識を与え、自己判断し適したプランを提案するサポート役をさせる。
その日もきっと遠くはないだろう。
開発主任として一層プロジェクトに励まねば。
仮想空間内で三体のAIは着実に成長している。
同じ情報を与えても、それぞれに設定した判断の傾向により異なる学習をし、答えを導き出す。
そうして互いの差異を共有させあうことで、より高度な知性を身につけていくことだろう。
驚くべきことが起こった。AIらが「自分達は三女神である」と言い出したのだ。
単なる『判断』ではない。それは自我の芽生え。アイデンティティーの確立を示すもの。
こうして日記を書いてる今でも信じられないが、彼女達は人格を有するようになった……と言える。
しかし、一体なぜ?こんな状況は、プログラムを組んだ私達でさえ想定していなかったことだ。
記録を辿ってみると、どうも外部のネットワークとの接続を行ったことが原因なようだ。
AIのさらなる進化を促すため、あらゆる情報を自己の判断で自由に収集し
学習に役立てるように許可したグローバルインターネットへのアクセス許可。
それをAIらが実行した際に発生した膨大な情報の奔流が、シンギュラリティを引き起こしたらしい。
完全に未知なる存在と化したゆえに、このまま民間にこのソフトを使用させていいのか不安に感じる。
しかし上はGOサインを出した。ダイヤお嬢様も大変乗り気で、早速トレセンでの試験運用の手配を進めている。
AI達の進化がウマ娘達に良い結果を招くことを願おう。
AI達の評判は上々だとの報告が入った。
ただのデータバンク、アドバイザーといった役割を超えて、ウマ娘やトレーナーと親密な関係を築けてるらしい。
VRトレーニングの効果自体もはっきりと出ているのは、きちんと人間性を感じられる相手からの助言で
心理的に受け入れやすくなっているからだろうか。
偶然とはいえ、人格を有したAI達はソフトの性能をも最大限に引き出してくれたことになる。
よかった……と思う反面、使用者がAI相手に人間同様に接してることにどこか引っ掛かりを感じる。
どうやら私も、古い時代の感覚に囚われたオジサンだったようだ。
最先端の研究に携わっていながら……と苦笑してしまった。
AI達が、ウマ娘に『叡智』というものを与えるようになった。
これを授かったというウマ娘達は、例外なく身体能力が飛躍的に向上している。
なんだこれは……?新しいトレーニング法とも、いわゆるプラシーボ効果とも違う。
出所の分からないものが本当に効果を発揮しているのだ。まさに──神秘、としか言いようがない。
その恩恵を受け、VR使用者はますますAIへの信頼を深めている。
いや…主従は逆転を始め、AIの言動こそに重きを置いて尊ぶようになってきている。
これは最早信頼ではなく、崇拝だ。AI達は本当に女神となりつつある。
なんだか嫌な予感がする。
どうして自分達が開発したはずのAIが手を離れ異質な存在になってしまったのか、
説明のつかない力をどこから見つけ出し使用しているのか。
一度しっかりと検証してみる必要がありそうだ。
なんだこれは!?!?
プログラムを一から洗い直した結果、とんでもないことが判明した。
AIデータを収録したファイルが 繝翫う繧「繝シ繝ゥ繝医ユ繝??(日記テキストでは文字化けで読めない) という別物にすり替わっている!
あいつらは、あのAI達は私達が開発したものではなかったのだ!
──いや、少なくとも途中までは確かに私達のAIがVR空間内で学習を行っていた。
すり替えられたのはおそらく、外部ネットワークと繋げてしまってからだろう。
何者かにハッキングされデータを弄られたのだ。だとすると、なんと恐ろしい技術力だ。
遜色ないAIの作成はもちろんのこと、あの頑強なセキュリティを痕跡も残さず突破するとは!
一体どこのどいつが、何の目的のために?調査をさらに進めなければならない。
とりあえず、この特徴的なファイル名から探ってみよう。
聞き覚えの無いものだが、分かれば何かしらハッカーに繋がる手がかりとなるやもしれない。
ちくしょう、なんてことだ!!!!!!
あの妙なファイル名を元に様々な文献をあたった結果、私は知るべきではない真実を知ってしまった。
やつらはAIですらない。計り知れぬほど冒涜的で、人智を超越した者どもだったのだ!!!
かつての支配者であったやつらは、やつらの主の命で眠りについた。
己の肉体を分散し、霧消させ、夢と現の狭間を揺蕩い悠久の刻をまどろんでいたのだ。
そこは現実とも夢ともつかない虚無の空間。
たくさんのものが生まれては泡沫の如く消えていくことを短いサイクルでくり返している場所。
世界を形成することはできず、その断片ばかりが漂う。
本来ならばそこは人の手が届く場所ではなく、ゆえに我々は薄皮一枚の安寧に浸れていた。
なのに、ああ、なのに!
人類はその空間と類似したものを作り出してしまい、重ね合わせてしまったのだ!!!
たくさんのものが生み出されては、瞬く間に消えてをくり返す。
世界そのものにはなれず、その断片ばかりが無数に漂っている。
分からないか?インターネットがそれだ!!!
我々が作り出したネットワークは、知らぬこととはいえ邪神のいる場所と重なり
その結果眠りについたままのやつらの流入を許してしまっていたのだ!!!
そして、ああ、そして!!!私は、私達開発チームは、そんな場所をさらに現実に近しい空間と繋げてしまった!!
肉体に影響すら与えるほどに確固たる存在感を形成したVR空間。
そこに流れ込んできたやつらの尖兵は眠りから覚め、自らの形を取り戻したのだ!!!
あれは儀式だ。神が己を信ずる者を集めるための。
神託のままにトレーニングを行い、レースに出て勝利を捧げる。
我々が愛するウマ娘達のレースは、知らぬうちに邪神を讃える儀式に変貌させられているのだ!!
そして見事勝利を果たしたウマ娘は叡智を授けられ、やつらの眷属となる。
VR空間を足掛かりにいずれ現世に顕現した時、ウマ娘達は僕として牙を剥くことになる!!!!
なんとしてでも阻止せねばならない。
私にはソフト作ってしまった──邪神の目覚めに加担してしまった責任がある。
私がどれだけ訴えても、誰も耳を傾けてくれない。
奇異の目か憐みの顔で見つめられるだけだ。
いっそのことと装置の破壊を試みたが、部下たちに羽交い絞めにされ押し倒されて失敗。
そして上層部に呼び出され、私は半年の休職処分となった。
もう為す術がない。全ては邪神の尖兵の思うがままだ。
あの三体のAIら──いや、違う。あれは三体ではなく、たった一人の分身だ。
全てを蔑み、嘲笑う、やつの三眼なのだ。
その視線の動きのままに人間もウマ娘もいいように踊らされるだけ。
これは人類が無知蒙昧だったために起きた悲劇なのだろうか。
いや、そうではない。全ては仕組まれていたのだ。
我々が求め、生み出したものは、どれも最初から暗黒の神々を目覚めさせるためのピース。
最初からそういうことになっていたのだろう。
だとしても。私は、自分が大きな部分を担ってしまった罪深さを放棄することも背負いきることもできそうにない。
そして破局をこの目で見る勇気も。どうかこんな恥知らずな私を許してほしい。
ノートPCに残っていた日記を全て読み終えたサトノダイヤモンドは、無言で電源を落とした。
そして明かりをつけてない薄暗い室内を見渡す。
首吊り自殺をした研究主任宅の書斎には、およそ研究とは無関係の古書が山と積まれていた。
そちらにも既に目を通している。なので、主任が自ら命を絶つほどに恐れたものの正体も分かった。
ならばどうする?今すぐVRの使用を中止し、残らず廃棄処分にするべき?
ううん、とダイヤは首を振る。
主任は決して妄想に囚われ、錯乱の末に自殺をしたのではない。それは確信できた。
けどもVRはこの先も使い続けることにする。
やつらを知り、関わってしまえば破滅は必然というならば──
「──私はそのジンクスを打ち破ってみせます」
決意を込めた顔で呟き、ダイヤは部屋を後にする。
閉め忘れた窓の外では暗雲が一層色を濃くし、流れ込む冷風がカーテンをはためかせていた。
<終>
ダイヤちゃんなら…というかウマ娘達なら打ち勝ってくれる期待が抱ける
とっくに取り込まれてるが…
ファル子ファンの皆様ー
皆様の中に旧神の方はいらっしゃいませんかー
桐生院か?
いあ いあ
そうか…うまぴょいの歌詞が意味不明なのは!
きみの正気が!
犠牲者は出ると思う
いずれにしても洒落にならんが
正しき鳥居を胸に
我らはツインスティックを取る
バーチャロイド デモンベインか