だというのに、俺は──
「俺はトレーナー失格だ……!」
「落ち着いて、落ち着いてください。つまりあなたは、もしや自分とわ……お嬢様が両想いで、そんな気持ちになっている自分はわた……お嬢様のトレーナーに相応しくないと、そう仰っているのですね?」
「ええ、そうです。その通り。俺は……」
「だから落ち着いて。ゆっくり息を吸って」
サトノに連なる病院にて──とあるカウンセラーに抱えていた悩みをぶち撒ける。相手はウマ娘とのことで、トレーナーが抱えている悩みもよくわかるらしい。らしい、というのは目の前のカウンセラーがサングラスとマスクを付けと帽子を目深に被っているので耳と尻尾でしか判別できないからだ。
とにかく、学園の誰かに知られると漏れる可能性があるので、こうして外部の者に悩みを打ち明けている。
ちなみにこの場所はダイヤに紹介してもらった。よほどわかりやすく悩んでいたのだろう。そういう意味でも俺はトレーナー失格じゃないか。
話せば楽になるのではないかと思ったが、目論見は外れた。むしろ自責の念が強くなった。
「ええまぁ……正直、彼女をそういう目で見てしまう瞬間はあります。愛おしい……と。同時に、彼女もまた……」
「まぁ!」
「……? まぁ、しかし……トレーナーとして、彼女を導かねばならない立場として、年下過ぎる彼女にこんな気持ちを抱いてしまうのは……」
「……こほん。まずは、リラックスして勘違いを解くところから始めましょう」
「勘違い……」
カウンセラーはまた咳払いを一つすると、少しの間席を外して──暫くすると、小さな小包を持って戻ってきた。
「まず、ダイヤを二人きりでお出掛けに誘ってあげてください。今週末なんていかがでしょう。いえ、今週末にしましょう。サトノの私有地のコテージがあります。連絡を取っておきますね。そこで、リラックスできるアロマを炊いてください。この小包の中に入っています。それでも尚、気が進まないのであれば、このオーディオプレイヤーをつけて再生してください。きっと、気持ちが解れていく筈です」
「な、なるほど……?」
とにかく、そういうことになった。
ダイヤを誘った時は二つ返事どころか食い気味にOKが貰えた。
「ふふ……っ♪」
コテージに着いて、ダイヤは忙しなく耳をパタパタさせている。嬉しそうで可愛らしい。何かを期待するようにほっぺを染めて俺を見上げてくる。そんな顔を見ていると、やっぱり俺は勘違いしてしまう。
だが、今日はそんな勘違いを正すために来たのだ──
「トレーナーさん……」
ダイヤと湖畔の周りを散歩したり、地元に伝わる二人が二人が幸せになれるジンクスにあやかり湖で石切遊びの限界に挑んだり、釣りを楽しんだり、目一杯遊んで──疲れて戻ってきてから、リラックスする為に例のアロマを炊いた。
そうしたら、なんだか甘ったるい匂いが部屋に充満して、身体が火照る。ダイヤが何だか艶かしく見えてくる。
頭がくらくらしてきて、ソファに腰掛けると、ダイヤがしなだれかかってくる。柔らかくていい匂いがする。
「ちょ、ちょっと待って……」
だが、俺は慌てない。こんな時のために貰った例のオーディオプレイヤーだ。
イヤホンを耳に付けて、俺はプレイヤーに保存されているデータを再生した。
「……ぇ?」
耳元でダイヤの声がした。
『それは、勘違いですから……♪』
「……かん、ちがい……?」
くらくらする頭に、ダイヤの声が溶けてくる。
『そうです。勘違いなので、大丈夫です……♪』
「……勘違いだから……大丈夫……」
ダイヤが俺の両肩に手を置いて、体重をかけてくる。ズブズブとソファに身体が沈む。
「で、でも……俺は……トレーナーで……ダイヤとは……」
『大丈夫です。勘違いなので……♪』
トレーナーだからダイヤには手を出せない……勘違い?
俺は、ダイヤに手を出しても──?
「大丈夫ですよ」
悩んでいたのが夢のようだ。
「トレーナーさん……zzz……」
ダイヤの体温と体重を感じて、それでも全く重く感じない。
俺は、大丈夫なのだから。
>もしや自分とわ……
初手でもう隠蔽できてねえ
>サトノに連なる病院にて──
この時点で既に手遅れでは?
医師が患者を陥れるような真似する筈がないし
二人共裸な気がするんだけど本当に大丈夫?
大丈夫です
大丈夫です
ダイヤちゃんの胸
なんか目の焦点があってない…
大丈夫です
ジンクス
これで出てくる答えってトレーナー本人に都合のいい答えだからね…ダイヤちゃんは悪くないね…
(やはり俺はとんでもない間違いを…)って後々ならない?
大丈夫です
その頃にはもう既成事実と埋められた外堀で
>>6
>大丈夫です