「えへへへ、そうなんですよ。トレーナーさん、責任取るって言ってけで…」
驚いた、あのユキノが。とはいえ元から芯は強い子。これ、と決めたら真っ直ぐ自分の気持ちを伝えるのもそう不思議ではないか。
「おめでとう、ユキノ。お幸せにね」
「ふへへ、ありがとがんす、シチーさん。それもこれも、この本のおかげだべ」
そう言ってユキノが取り出したのは“奥手な殿方も一発差し切り!恋のレースの極意"
巷で話題の恋愛指南書、というのは建前でその正体は逆ぴょい指南書やらウマ娘の暴走を教唆する魔書とかトレーナー達に揶揄されてる代物だ。書いたのはキングヘイローの母親。偉大な功績を遺したウマ娘だけど、自分のトレーナーを逆ぴょいして子を孕んでそのままレースに出走したという逸話も遺す問題児でもある人。
そんな人が書いた本だから、トレーナーに懸想する子が多いココ、トレセン学園では恋愛成就のバイブルとして多くの子達が愛読している。そっか、ユキノもその1人だったんだね。
嬉しそうに語るユキノを見て、嬉しさ半分、寂しさ半分。何と言うか、妹に先を越されたみたいな、そんな気分。アタシも、トレーナーと…
「シチーさんも良かったらどうです?」
そんなアタシの心を見透かしたかのように、ユキノは本を差し出してきた。それを軽く押し返す。
「アタシはいいよ」
「んえ?んだども、シチーさんだってトレーナーさんのこと好きじゃないですか?」
「いいって。アタシにはアタシのやり方があるし。それに、そんな本なくたってアイツはアタシのこと好きすぎるくらいベタ惚れだから」
「ふわぁぁ…流石シチーさんだべ…!自信に満ち溢れててかっこいいべ…」
かっこいいべ…(エコー)
かっこいいべ…
かっこいいべ…
でもそれ余裕ぶって誰かにかっさらわれるパターンだべ…
そう言わず先っちょだけでも読んでほしいべ…
困った。あの子の善意だから無下には出来ない。でもアタシはこれに頼りたくもない。
これでも、自分の美貌を売りにする仕事をやっている。しかも、巷では千年に一度の美少女ウマ娘なんて呼ばれている。基本的に美女しか生まれないウマ娘の中でも、千年に一度、なんて形容される程の美人で通ってる。通っているのだ。
そんなアタシがいくら惚れたからと言って好いた男に襲いかかっていいものか?
答えはNOだ。
──ゴールドシチー熱愛!お相手はトレーナー!交際のきっかけは逆ぴょい!?
こんなニュースが出回ってみろ。世間様がアタシに抱いているイメージをぶち壊すことになる。
元々、アタシの見た目しか評価しない世間が嫌だった。だけどアイツと走った3年間、綺麗な見た目も、レースへの負けず嫌いな内面も、それに対する世間の評価も、皆まとめてアタシを構成するもの、全部合わせてゴールドシチーだってアイツやユキノが教えてくれた。そうやって気付かせてくれた人に想いを遂げようっていうのに、アタシを構成するものの1つをぶち壊してしまっては顔向け出来ない。
とはいえ、さっきも言った通りユキノの善意も無下には出来ない。だから、一応ちょっと読んでみるだけ。あの子も先っちょだけでも読んでって言ってたしね、実行に移さなくても許してくれるっしょ。
パラパラと最初の数ページをめくる。
──はじめに。この本を手に取ったということは貴方は恋に悩んでいることでしょう。この本が少しでも貴方の恋路の助けになるように願っています。
さて、恋する乙女の諸君。奥手な殿方をオトす手っ取り早方法、それは逆ぴょいです。しかし、中にはいきなり逆ぴょいはちょっと…と思う方もいることでしょう。私も娘に『恋ってそう単純なものじゃないでしょう!』と怒られました。私もそう思います(笑)
娘のように、早々にコトに及ぶことに難を示す人もいるかもしれません。そこで、この本ではあくまで逆ぴょいは最終手段として、意中の殿方に意識してもらい、向こうから手を出してもらう順ぴょいを目標としてレクチャーしていこうと思います。
その後も読み進め、好きな人に意識させる手段の1つとして、相手の好みの格好をする、というものを見つけた。
これはアタシの得意分野だ。何せ、普段から色んな服を着ている。アイツが何を求めても着こなす自信がある。でも、アイツの好みの格好なんて知らない。だってアイツ何着ても褒めるし。この辺は出会ったばかりの頃、容姿のことでとやかく言ったら許さない的なことを言ったアタシに落ち度がある。
どんな服装が好きか聞いてみる?……アタシから聞くのもそれはそれで何か負けた気がする。なら、アタシじゃない人に聞き出してもらうまで。と、いうわけで。
「お願い!アンタだけが頼りなの!」
「うっへぇ、それマジで言ってる?超イヤなんですけど」
「アンタトレーナーと仲良いし聞き出し易いかなって…」
「仲良いっていうか追われてビビって洗いざらい話しただけなのに向こうが変に慕ってくるようになったっつーか…」
「うわ、めんどくせ!……はぁ、しゃーないか。ダチの頼みだしやってやんよー。あ、お礼はウマックのスペシャルバーガーな?」
「りょ。さっすがジョーダン。話が分かって助かるわー」
アタシが聞き出すのは負けた気がする。だから、ジョーダン伝てに聞き出そうってワケ。アイツとも仲良いしね。
斯くして数日後。
「お待たー。ミッションコンクリートっしょ」
「コンプリートな。サンキュ、ジョーダン。ポテトも付けていいよ」
「ナゲットもな。いやー、悪いけど二度とやんねぇから!」
ゲンナリした顔で言うジョーダン。うーん、そんなに口を割らなかったのかなアイツ。
「で、アイツは何て言ってた?」
「はいはい」ホワンホワンホワンジョーダン(回想に入る音)
──ねぇねぇ、アンタってさぁ。女にしてほしい格好とかあるん?
──どうした急に?……もしかしてジョーダンが着てくれるのか?
「やっべ、余計なトコはショーリャクして話すんだった!」
「別にいいけど?アンタがアイツの好きなカッコしても。アタシには関係ねぇーし」
「好きな人オトすためにアタシに聞き出させたんだから大アリっしょ!?はいはい、拗ねんな拗ねんな!続き行くよ」ホワンホワンホワンジョーダン
──は?着ねぇし。ほら、アンタってモデルの担当トレーナーじゃん?ファッションにも興味あんのかなって思ってさ。
──ふむ……そうだな、へそ出しルックで。
──ほうほう。
──ホットパンツで。
──結構露出あるじゃん。スケベめ。
──黒いジャケット羽織ってて。
──ん?
──そんな格好でビシッとキメてるけど走ってる時は泥臭くて勝利に貪欲で。そんな姿が好きなんだよなぁ…
「これアタシのことだ…」
「それ使いどこおかしくねぇ?まあそうなんだけどさ…」
やっべ…ニヤけるの抑えらんない。アタシのこと好きだって…!
「何て?…一応さぁ、アタシもツッコミ入れたわけ。そーいうこと聞いてんじゃないって。そしたら…」
──何か他にないわけ?好きな格好。
──うーん…丈の短い和服も好き、かな
「ってさ」
「これアタシのことだ…」
「そだねー。そうやってさー、何聞いてもアンタのことしか言わねぇの。こっちは惚気聞かされ続けてマジしんどかった。随分と愛されてるみたいじゃん?」
これはもう決まりっしょ、と笑うジョーダン。確かにアンタの言う通りこれは決まりだ。
「ジョーダン、アタシ決めたよ」
「おっ、とうとう決めにいきますか。これだけ愛されてるもんねー、がんばれがんばれ」
「アタシ、アイツが告白してくるの待つよ。もう不安は無い。ずっと待ってられる」
「………はぁ!?」
「は、おま、シチー!!!マジありえないんですけど!?これだけ状況が整ってるのに自分から告白しないとか…つかアタシに働かせといて結局動かん気か!?」
「元々告白するとは言ってないー。アイツがどんな格好好きか知りたかっただけだし?それでアタシが何着ても好きって言うならもう勝ち確じゃん?」
「ざけんな!自分から動かねぇ女が恋に勝てるかっつーんだよ!ユキノもアンタのそーゆーところ心配して本渡したんじゃねーの!?」
「今ユキノ関係ねぇし!」
後日、ユキノに本の感想を伝えつつ、事の顛末を話したら
「シチーさんの恋が成就するのはもう少し先になりそうだべ…」と肩を落とされたのは見なかったことにした。
で耐えられなかった
どんな音だよ!
性癖博覧会+の淫魔(27)がよく出す音
そうだそうだとシチーさんも言っております
……そういうんじゃないし…
もう笑って欲しいわよー!😭
キングの仕送り逆ぴょい本の印税!
😭完全に否定出来ないのが辛いわ…
パートナーがモンスター童貞になるじゃん