1: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:49:54
トレーナー足るものウマ娘との適切な距離感は守るべきである。幼い頃、そう言ってくれたのはトレーナーをしているという気のいい近所の男性だった。
親御さんへの挨拶はわからないでもないが、実家まで足を運ぶのはアウトなんじゃないだろうか。ましてや泊まり挙げ句の果てには同室で寝るだの、流石に教師としてのラインを越えている。
教え子をそんな目で見ているのかと言われれば勿論そういうわけではなく、こっちがしているのは周りから教え子との関係を見た場合の話であり、とにかく小さなことでも誤解を与えるべきではない──
親御さんへの挨拶はわからないでもないが、実家まで足を運ぶのはアウトなんじゃないだろうか。ましてや泊まり挙げ句の果てには同室で寝るだの、流石に教師としてのラインを越えている。
教え子をそんな目で見ているのかと言われれば勿論そういうわけではなく、こっちがしているのは周りから教え子との関係を見た場合の話であり、とにかく小さなことでも誤解を与えるべきではない──
2: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:50:50
そう締め括ると、彼は担当バに引っ張られるようにホテル街へと消えていった──
そんな過去に思いを馳せていると、ふと扉の向こうから足音がする。もう何度も聞いてきた馴染み深いそのステップの正体には見当がついていたし、ノックの直後に引き戸が開かれたってなんの驚きもなかった。
「やっほ。トレちゃん、お邪魔するよ〜……お。なんだかいい香り……前のクラファンの?」
「届いたから早速使ってみようと思って。聞いてたよりもキツい感じもないし」
「ウマ娘的にもキツくない、むしろ全然あり」
そんな過去に思いを馳せていると、ふと扉の向こうから足音がする。もう何度も聞いてきた馴染み深いそのステップの正体には見当がついていたし、ノックの直後に引き戸が開かれたってなんの驚きもなかった。
「やっほ。トレちゃん、お邪魔するよ〜……お。なんだかいい香り……前のクラファンの?」
「届いたから早速使ってみようと思って。聞いてたよりもキツい感じもないし」
「ウマ娘的にもキツくない、むしろ全然あり」
3: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:51:11
そう言いつつも後ろ手で引き戸を締めるウマ娘、トランセンドはいつもの定位置に着く。定位置とは、パソコンを弄るこちらの左隣のことだ。
「うん、やっぱり。でもちょっと残念」
「何が?」
「トレちゃんの匂い、嫌いじゃなかったんだよねー。むしろ好き、寄り」
「ありがとう。でも折角作ったものだし、しばらくはこのアロマで行こうかなって」
4: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:51:30
トランセンドの趣味は多岐に渡るが、その中でも自分が最近感化されているのは多種多様なガジェットを自分で弄ることだ。
最初こそは分解してはネジを失くしたり、どこのパーツであったかわからなくなったり、また配線を間違えたりと失敗もあったが、それもまた面白く気がつけばドップリとはまってしまっていた。
そんな自分の最新作は加湿器、のようなものだ。休日にトランセンドとガジェット巡りをした時に出会ったジャンク商品を二つ継ぎ合わせで作ったハリボテではあるが、初めてなんのトラブルもなしに起動した作品といったこともあり、愛着がある。
最初こそは分解してはネジを失くしたり、どこのパーツであったかわからなくなったり、また配線を間違えたりと失敗もあったが、それもまた面白く気がつけばドップリとはまってしまっていた。
そんな自分の最新作は加湿器、のようなものだ。休日にトランセンドとガジェット巡りをした時に出会ったジャンク商品を二つ継ぎ合わせで作ったハリボテではあるが、初めてなんのトラブルもなしに起動した作品といったこともあり、愛着がある。
5: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:51:53
「あのデート、楽しかったよねぇ。ウチも掘り出し物見つけられたし、トレちゃんのおかげで値引きもしてもらえたしね」
「俺はカップルじゃないって言おうとしたんだけどなぁ」
「俺はカップルじゃないって言おうとしたんだけどなぁ」
大通りから外れた裏道に、ひっそりと佇むジャンク屋。トランセンドの交遊関係の一人であるという店主にどうしてか交際関係であると勘違いされ、存在しないカップル割までされそうになった所で誤解を解こうとしたが、トランセンドの感謝の言葉に遮られ、未だに誤解は誤解のまま。
ジャンクとは言え大きくない出費であったから値引き自体はありがたいのだが、騙すような真似をしてしまっているのが心に凝りのように残っている。
6: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:52:16
「前も言ったっしょ? ウチはそう見られても全然構わないよん」
「はいはい、友達友達」
「ひど。トレちゃん冷たーい。もう四年も一緒にやってきた相棒じゃん」
「そうだったな相棒」
「愛してるって言ったのに。ウチに夢中まで言ってくれたのになぁ」
「ああ、夢中だよ。君の走りにね」
「ぶーぶー」
「はいはい、友達友達」
「ひど。トレちゃん冷たーい。もう四年も一緒にやってきた相棒じゃん」
「そうだったな相棒」
「愛してるって言ったのに。ウチに夢中まで言ってくれたのになぁ」
「ああ、夢中だよ。君の走りにね」
「ぶーぶー」
7: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:52:56
ジュニア期のメイクデビューでの走りも、クラシックでの初のG1"チャンピオンズC"の走りも、シニア一年目の最後のチャンピオンズCの走りも、目を閉じればすぐに浮かび上がる。暇さえあれば何度も見返してきた、それこそ網膜に焼き付くほどに。色んなことがあった、彼女は色んなものを手に入れて色んなものを失った、それでもその走りは変わらず魅力的で、ゾクゾクして、ワクワクして──
「本当に、夢中なんだ。これから先どんなウマ娘が現れたって、君の走りは一生俺の心を掴んで離さない。絶対にね」
「──、……ねぇトレちゃん」
「なんだ?」
「愛してるよ」
8: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:53:20
この言葉に、どう返すのが正解なのだろうか。俺はまたからかわれてる。こんな耳が熱い中で彼女の顔は見れない、きっとその顔はニヤついているからだ。それはなんというか、悔しい。だから、
「ああ、知ってるよ」
きっとこう返すのが無難なのだろう。彼女のように上手くカウンターは決めれない、今は避けるのが精一杯だ。けれどいつか、彼女にも特大のカウンターを決めてやる。
上手くは言えないが、こんな関係こそが俺達にとって適切な距離感なんだ。
9: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:53:35
そういえば、今日のトランは伊達眼鏡をかけていなかったな。部屋にでも忘れたのだろうか?
15: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:02:06
>>9
お前お前お前ー!
お前お前お前ー!
10: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:54:39
乙 カウンター実はもう決まってるのでは?
11: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:54:50
トランセンドに脳を焼かれ三年ぶりぐらいに筆を取りました。お目汚し申し訳ない。けどリビドーを抑えきれなかった
16: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:02:47
>>11
三年…!?
三年…!?
18: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:09:43
>>16
かつてはセイちゃんやタイシンを書いていましたが、膝に仕事を受けてしまい
そんな灰色の脳みそにトランセンドは色を焼き付けてくれました。ありがとうトランセンド。さようなら4万円
かつてはセイちゃんやタイシンを書いていましたが、膝に仕事を受けてしまい
そんな灰色の脳みそにトランセンドは色を焼き付けてくれました。ありがとうトランセンド。さようなら4万円
27: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:22:35
>>18
色を失っていたんだな…
色を失っていたんだな…
12: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:56:51
感情に身を任せるのは良いことだなあ
13: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:56:54
トランセンドがぶっ刺さったやつがやたらいるようだな…
14: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)21:57:17
適切な距離感久しぶりに見た
19: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:11:13
4万円!?
20: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:11:41
>>19
4万円!?
4万円!?
22: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:12:17
>>20
4万円!?
4万円!?
23: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:13:24
12万円!?
24: おまけ 2024/03/18(月)22:17:53
ウチらウマ娘は嗅覚だけでなく、聴覚にも優れている。ヒトとは違った位置にある頭上の大きな耳は4キロ先の音まで聞き取れる、らしい。
そんな優れた聴覚はヒトが聞き取れない、聞き逃すであろう音でさえも正確に拾い取る。
例えば地方へ向かう新幹線の中、トレちゃんとの会話もそこそこに少し惰眠にでも耽ろうかと背もたれに身を預け目を閉じたシチュエーション。隣の席に座るトレちゃんの耳辺りから、なにかが聞こえてくる。イヤホンの音漏れだろうか、小さな音だからウマ娘ぐらいでないと聞き取れないだろう。
そんな優れた聴覚はヒトが聞き取れない、聞き逃すであろう音でさえも正確に拾い取る。
例えば地方へ向かう新幹線の中、トレちゃんとの会話もそこそこに少し惰眠にでも耽ろうかと背もたれに身を預け目を閉じたシチュエーション。隣の席に座るトレちゃんの耳辺りから、なにかが聞こえてくる。イヤホンの音漏れだろうか、小さな音だからウマ娘ぐらいでないと聞き取れないだろう。
25: おわり 2024/03/18(月)22:18:59
実況だ、実況の声が聞こえてくる。聞き覚えのあるフレーズが微かに流れてくる。ふと音と記憶の映像が結び付いた。
──これ、もしかしてウチのレースの実況なんじゃ。
数分経てばレースも変わる、実況の人間も変わる。しかしどれも強烈に聞き覚えがあり、なんなら映像まで思い起こせる。
トレちゃん、トレちゃんさ。なんていうか、その。ほんとさ、そういうところなんだよね。
「(──ウチのこと、好きすぎ)」
暴れだしそうな脚を必死に抑え、なんとか寝た振りでやり過ごす。それを新幹線で地方へ赴く度、毎回。
そろそろドでかい仕返しの一回や二回しても怒られないと思うんだよね。まー、とりあえず。根回しと外堀ぐらいは埋めようかな。レクチャーしてくれた先輩達を見習ってさ。
──これ、もしかしてウチのレースの実況なんじゃ。
数分経てばレースも変わる、実況の人間も変わる。しかしどれも強烈に聞き覚えがあり、なんなら映像まで思い起こせる。
トレちゃん、トレちゃんさ。なんていうか、その。ほんとさ、そういうところなんだよね。
「(──ウチのこと、好きすぎ)」
暴れだしそうな脚を必死に抑え、なんとか寝た振りでやり過ごす。それを新幹線で地方へ赴く度、毎回。
そろそろドでかい仕返しの一回や二回しても怒られないと思うんだよね。まー、とりあえず。根回しと外堀ぐらいは埋めようかな。レクチャーしてくれた先輩達を見習ってさ。
28: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:24:57
寝る前に上質なSSを補給できてありがたい…
29: 名無しさん(仮) 2024/03/18(月)22:29:43
実質愛の言葉を交わした仲だけど愛してるの直球にはたじろぐ
この塩梅のちょうど良さよ
この塩梅のちょうど良さよ
30: オワリ 2024/03/18(月)22:50:48
オワリ