夜も更けようとしていた頃、トレーナー寮にある自室にジャーニーが訪ねてきた。
「こんな時間にどうしたんだ……? ジャーニー」
「そうですね……まあ、立ち話もなんですから……お部屋に入れてはいただけませんか……?」
「それは良いけど……」
ひとまず、ジャーニーを自室に招き入れる。急な訪問でもてなす準備もできていないが……ジャーニーはお気になさらず、と軽く会釈をしてから荷物を置き座る。
「……それで、こんな遅い時間にどうしたんだ? なんか荷物も持ってきてるし……」
「それは……この前トレーナーさんからご相談いただいた件で、少々お力添えをいたしましょうかと思いまして」
ジャーニーがそう言って微笑む。この前相談した件……? 何か彼女に話しただろうか……少し考え込む。
「……最近あまり上手く眠れていない……と、話されていたではありませんか」
そう言われて、ああ……と思い出す。そういえば、前にジャーニーに目のクマを心配されてその話をしたっけ。
「ですから、今日はトレーナーさんの快適な睡眠のために、お力添えをいたしましょうかと思いまして……ご迷惑でしたでしょうか?」
寮の門限はとっくに過ぎている時間。彼女はまだ学生の身だ……そう心配をするが、彼女はこちらに微笑みながら答える。
「ええ、問題はありません。ちゃんと外泊届けの申請は済ませてありますから」
「そっか……」
彼女がそう言うのなら大丈夫なのだろう。ジャーニーはその辺りに抜かりがあるようなことはしない娘だ。
「それでは、始めましょうか……全ては、トレーナーさんの快適な睡眠のために――」
そうして、ジャーニーとの快適な眠りへの夜は始まった――。
――――――
「……そうだ、トレーナーさん。もう入浴は済ませましたか?」
ジャーニーが荷物から何かを取り出しながら、こちらに振り返り問いかける。
「ん、もう入っちゃったけど……何かあった?」
「いえ、それは良かった。入浴直後の時間は快適な睡眠には向いていませんので……これでゆっくり時間をかけられます」
ふふ、とジャーニーは優しく微笑みかける。
「……それで、今は何を準備してるの?」
ケーブルのついた小物に、小瓶をつんと垂らす。ぱちりとジャーニーが電源を入れると、それはほのかに光りやがてふんわりと良い香りが広がっていく。
「……ん、良い香りだね。確かに、これはリラックスできるかも……」
「そうですか……♪ ふふっ、それは良かった……。快適な睡眠にはやはり、リラックスが一番ですから……」
ふんわりと香るアロマの匂い。主張は強くなく、それでいて自然と馴染み心を落ち着ける香り。ジャーニーはフレグランスショップを贔屓にしているほど、香りにこだわりがある娘だ。そのジャーニーが選んだアロマなのだから、間違いは無いのだろう。
「……さ、トレーナーさん。部屋の電気を暗くいたしましょうか。寝る前に明るい場所に居続けるのは安眠を阻害してしまいますから」
ジャーニーに促されるまま、部屋の電気を暗くする。ほのかな灯りだけに照らされた部屋。アロマの香りと相まって、そのやわい光に照らされた部屋はよく雰囲気が出ていた。
ジャーニーが手を重ねて、スマホを置かせる。彼女の細い指に導かれるまま、充電コードをスマホに刺しぽんと寝具に置く。
ジャーニーとの会話を退屈しのぎ、とは思わないが……さて、何を話せば良いのだろうか……。未だ手を重ねたままこちらをじっと見上げるジャーニーに、少し戸惑う。
「……ふふ、そうですね。何を話したら良いか……そうだ、トレーナーさん……最近寝る前は何をしていますか?」
ジャーニーはベッドの縁に座り、こちらにも座るよう促す。促されるまま、俺もベッドの縁に腰かけ彼女の問いに思考を巡らす。
「そう、だな……。最近は、やっぱり仕事のこととかかな。今日のまとめとか、明日の準備とか……そこのパソコンを使ってぱぱっと……」
やんわりと咎める彼女の言葉に、胸を刺される。
「寝る直前は避けて、そうですね……夕食後と入浴前の間に終わらせたりするのが良いでしょうか……快適な睡眠にはデスクワークのブルーライトをなるべく避けましょうね、トレーナーさん」
「うん、そうだな……これからはそうしてみるよ。心配してくれてありがとう、ジャーニー」
こちらを思いやるジャーニーの気持ちに、そう返事をして応える。
「いえ、これもトレーナーさんの快適な睡眠を提供するためですから」
ジャーニーはそう言って微笑む。ほのかな灯りに照らされた彼女の優しげな表情は、とても心落ち着くものであった。
「それでは、トレーナーさん……そろそろ眠る準備をいたしましょうか」
「そうだね。……でも、これからどうするの……?」
眠る準備とは言ってるが、何をしたら良いのか。そもそも、ジャーニーは寝るときどうするのか。
そう言って、ジャーニーがベッドに横たわる。
「……いや、それは……」
彼女には、一緒に、と言われたが……流石にそれは、抵抗感がある。
「どうしましたか……? ここはトレーナーさんのベッドなのですから、どうぞ遠慮なく……横になってください」「いや……ジャーニーと一緒に横になるのは流石に……不味いんじゃないか……?」
ベッドに横たわり、こちらを誘うジャーニーに、俺は懸念を伝える。
「担当と一緒にベッドに横になるって、ちょっと……いや、結構トレーナー的には不味い気が……」「……私は、構いませんよ? トレーナーさんが、私と横になるのが嫌じゃなければ……ですが……」
伏せ目がちに、こちらに尋ねるジャーニー。
「嫌な訳ではないけど……でもやっぱり――」
――ぎゅ。
「……ジャーニー……?」
突然、ジャーニーが起き上がり、こちらにそっと抱きついてくる。
「……トレーナーさん……♪」「んっ……」
ジャーニーに横から抱きつかれて、耳元で囁かれる。
「んん……」
ジャーニーのしっとりとした、甘い声が脳に溶けていく。
「ほら、トレーナーさん……いつものように、私を抱きしめてください」「あ、ああ……」
そっと、向きかえり……ぎゅ、とジャーニーの小さな身体を抱きしめる……。
「ふふ……ほら、平気でしょう……? ただこうやって……いつものように抱きしめあって、ただ眠るだけ……そこに何もやましいことなんて、無いではありませんか」
彼女の声に導かれるまま、ジャーニーを抱きしめる腕に力が入っていく。
「さあ……トレーナーさん、横になりましょう……?」
ジャーニーがベッドに倒れ込む。自分の身体も、傾く。……そうしてそのまま、二人でベッドに横たわる。
「トレーナーさん……♪」「……ジャーニー……」
彼女の小さな身体が、ぎゅっと自分の身体に押し当てられる。それを受け止めるように、ぎゅっと抱きしめる……。
「……ほら、何も……問題はありませんね……?」
「…………ん……そう、だな……」
「暖かい、ですか……?」
「ああ……」
「私も、ウマ娘ですから……トレーナーさんより体温が高い……ふふ、眠る前に暖かくするのも、快適な睡眠のためになりますからね」
確かに、彼女を抱いていると、心が落ち着く……リラックスをしている……。
「落ち着くよ、こうしていると……」
「ふふ……それは良かった……」
ぎゅ……。彼女の身体を抱きしめる。暖かく、抱き心地が良い、ジャーニーの身体。
このままじっくりと、溶けてしまいそうな感覚を覚えながら……ふんわりと、彼女の香りが、俺を刺激する。
「……ジャーニー、良い匂いだね……」
「そう、ですか……? 寝る前ですから……いつもの香水はかけていないのですが……」
「ん……シャンプーの香りかな……優しくて、落ち着く匂いだ……」
「……ふふ、そうですか……それは、良かったです……♪」
ぎゅっと、ジャーニーがこちらに身体を預ける。腕の中で熱を、感触を感じながら……彼女の匂いを味わいながら、ベッドに横たわる。
うとうと……と思考が曖昧になりながら、彼女の声に反応する……。
「…………ああ……」
「……そうですか……それでは、一緒に眠りましょうか……♪」
「…………ああ……」
瞳を閉じて……彼女の熱を感じて……触れ合って……溶けて……。
「……おやすみなさいませ、トレーナーさん……」
「…………ああ……おやすみ……ジャーニー……」
――そうして……俺の意識は柔らかな暗闇の中へと……消えていった……。
――――――
「……おはようございます、トレーナーさん……♪」
朝の日差しと、彼女の優しい声に、意識が呼び戻される。ぐっと……身体が伸びて、脳がすっきりと晴れ渡る。
……ああ、良く寝たな。快適な眠りを終えて、新しい朝がやって来た。
ジャーニーをゆたんぽにして眠りたい
でもそこももっと見たいわッ見せてちょうだいッ