トレーナーさんと出会ったあの春から何年経っただろうか。あと何年経ったらトレーナーさんと別れの春が訪れるのだろうか。
……正直、私としましては。なんだかんだこのまま別れの春が訪れることはなくて、そのままだらだらとトレーナーさんとずっと一緒にいて、それからそれから……。
卒業したあとも、大人になっても、トレーナーさんと私はずっと一緒で、そのまま人生のゴールまでずっと一緒になるかも……? ……まあ、それも良いかなーと思っちゃってる私もいる訳で。
「なあ、ヒシミラクル」
……まあ、トレーナーさんに私以外の出会いの春が来るとも思えませんし? 仕方ないから私がトレーナーさんの春をずっと彩ってあげても? してあげちゃっても? 仕方ないからやってあげよーかなーって思っちゃったりして。
「俺今度お見合いすることになったんだよね」
…………?
「……へ……? いまなんて……?」
「え……いや、だから。お見合いすることになったんだって、俺」
…………?????
「……は、……はい〜〜!!?」
「えっ、そんな驚くこと?」
「いやいやいや……えっ、あの出会いとは無縁そうなトレーナーさんがお見合い???」
「おい、俺をなんだと思ってるんだ。…………いや、まあ……出会いと縁が無いってのはそうだけども……」「なのになんで突然!?」
「……だからだよ」
そう言って、トレーナーさんはため息を吐く。
「トレーナーやってたら出会いなんて無いだろうし、もういい歳なんだから……って親が勝手に」
「あぁ、あー……なんだ親御さんがお見合いを……なんてベタな」
……びっくりした。あのトレーナーさんがお見合いなんて言い出すから……。
でも良かった、トレーナーさんも乗り気じゃ無さそうだし、なーんだ心配することは――。
「まあ、でも確かに出会いに縁は無いからなあ。これを機にちゃんと結婚について考えるべきかもしれないかなー」
――嘘、でしょ……。
「なにその反応……? いや、うん……一応ちゃんと考えてはいるよ? だからお見合い行くんだし」「いやいやいや」
えっ、これまで女っ気の無かったトレーナーさんが本気でお見合いを?? えぇ??
「だって、トレーナーやってても出会えないし……」「いやありますって出会い」
私とか、私とか、私とか。
「えー? そう……? 同僚もだいたい男だし……いやまあ桐生院さんとかカレンチャンのトレーナーさんとかいるけども」
あの酒乱の人……は、良いとして。うぬぬ……桐生院さんはちょっと手強いような……。
「でもなー、桐生院さんとはお互い切磋琢磨するライバル? 的な感じだし。やっぱ出会いは無いって。そんな良い雰囲気になれそうな人なんて……」
「いやいやいや、もっと身近にいません? 良い雰囲気になれそうな人」
ここに。
「えー……? ……うーん……そんな人身近に……」
いますよー? ここにいますよー?
「……あ」
「……! ……もー、ようやく気付きました? そんな良い人がここにいるって――」
ゲシっ!
「あいたーっ!? なんで蹴るの!?」「なんでもありません」
「いやいやいや、なんでもないのに蹴らないでよ!?」「うるさいです……」
「……なんでそんな不機嫌そうな顔してんの……?」「知りません。自分で考えてください」「えぇ……?」
……はぁ……。……まあ……このニブちんトレーナーさんに私がそーいう目で見られて無いのはなんとなく分かっていましたけど……。
でもあんまりじゃないですか? 何年もずっと一緒にやってきて……私のそれなりーな人生設計をめちゃくちゃにして……クリスマスの日なんて、私が同棲しませんか? ってその場のノリで言っちゃったら、満更でも無さそうな顔してたクセに……。
「???」「……はぁ……」
未だに何も分かってなさそうな顔をしているトレーナーさんに思わずため息が出る。
…………ほんと、なんでこんな人好きになっちゃったんだろ……。
「…………トレーナーさんのバカ……」「……? いまなんか言った?」「……なんでもありませんよーだ」
とぼけたような表情のトレーナーさんからツンと顔を背ける。……トレーナーさんのバーカ。
「……えっ?」
「よく考えたら、まだヒシミラクルのレースやトレーニングとかで忙しいし。そもそもトレーナー業やりながら婚活とかお付き合いとかやってられないし……」
そう言ってトレーナーさんは頬をかく。
「お相手さんもそんな奴と付き合いたくは無いでしょ」
「…………そ、そうですよー! 私が卒業するまではトレーナーさんにはみっちり私に付き合って貰いますから! そんなことにうつつを抜かす暇ありませんから! ええ、まったく!」
「だよなー。だからお見合いは取り止めて貰うよ」
「…………っ……! ……よしっ」
心の中でぐっとガッツポーズを決める。
「……うーん、それにしても……俺のトレーナー業にも理解があるような、そんな良い人どっかにいないかなー」
トレーナーさんが頭の後ろに手を組みながら呑気なことを言います。
「……んー、いつか現れるんじゃないですか? そんなトレーナーさんに都合の良いような人も。……知らんけど」
「んな、他人事だと思って無責任な」
「あはは、そうして貰おっかなー」
トレーナーさんは、そう言って笑う。全然真に受けてないですねこれ……。
……でも、これはいわゆる……言質を取った、的な?
「もー、ちゃんとしっかり考えてくださいね? 私の人生がかかってるんですから」
「あはは、そうだな〜。それまでに良い人見つけなきゃな〜」
そう言って軽く笑うトレーナーさんをじっと見つめて私は、自分の番が来るまでにトレーナーさんに近寄る春は全て蹴散らしてやろうと。
そう決意を固めるのでした。
「…………逃しませんから」
「……なんか言った?」
「いいえー? なんでもありませーん」
覚悟していてくださいね? トレーナーさん。
恋の自覚ありありなミラクルいいよね
戦じゃあああああああ!!!!
多すぎるムーブじゃないか?
ええいならんならんならん!