口にそれを咥えて………準備を終えて、念のためにもう一度問いただす
これ自体は大したものじゃないが、それでも、彼女が望むのは少し異質だ。一体、何を考えているのだろうか
「ああ。早く見せてくれよ」
そう言った彼女は、ニヤッと笑って
「気にするな。別に私がどうこうするわけじゃないんだ。問題ないだろう?」
その言葉に、まぁ確かに、と思いつつ。やはり少し気が引ける感じがして
ただ一度了承してしまったのは確かなのだし、と。改めてライターを手に取って
口に咥えた一本の煙草に、久々に火をつけた
事の発端は、トレーナー室での打ち合わせ中の彼女………ナカヤマフェスタの一言だった
「………えっと、臭う?」
「いや、しない」
「いやまぁ、確かに昔は吸ってたけど……なんで?」
少なくとも、彼女の担当になってからは一度も吸ってない。というかそれをきっかけにキッパリと辞めたのだ
なのになんでわかったのか。そう聞こうとしたら、彼女は自分から話し始めた
「またそんな……」
「そこで、なんか嗅ぎ覚えのある臭いがしてな。なんだったか……と思い出せないでいたんだが」彼女は、指を二本揃えて見せて
「カウンターのオッサンが吸ってた煙草の臭いだったんだ。そこで、昔のアンタからも同じ臭いがしてたってことを思い出してな。多分、偶然同じ銘柄だったんじゃないか?」
そんな偶然があるのか。というか、昔の自分の臭いなんてよく覚えてたな………え、もしかしてそんなに臭かったのか?とちょっと不安になる
ちょっと頭を抱えてしまいたくなるが、それを察してかフェスタは笑って
「心配するな。ふわっとそんな記憶があっただけだ。それに、嫌いな臭いじゃないしな」
すると、フェスタは何か思いついたような……おい待てなんだその顔
何か禄でもない事を思いついた時特有の顔で、フェスタは笑っていた。めっちゃ嫌な予感しかしない顔で「なあ、私はアンタのそんな姿を一度も見たことが無くってね」
「当り前だろ、担当になってからキッパリ辞めたんだから」
「ああ、やっぱりそうだったのか。気にしなくてもよかったのによ」
「そういう訳にはいかないだろ。そもそも、トレーナーになった時点で本数も減らしてて、家で少し吸うくらいにしてたんだから」
嘘は何も言ってない。彼女の担当になる前から随分と本数を減らしてたし、辞めるのにもそこまで抵抗は無かった
吸ってても健康にいいものでもなんでもなかったし、なによりアスリート相手の教育者の立場としてあまりよろしくないし
「見てみたいって………何を」
「んなもん、決まってんだろ?」フェスタは再び、指を二本揃えて見せつけてきて
「アンタが、煙草ってものを吸ってる姿を、だよ」
流石に教育に悪いと思ったし、生徒の目の前で煙草を吸うなんて………と、かなり渋ってみせたのだけど
そこで、彼女は引き下がらなかった。ポケットからトランプを取り出した瞬間、色々と察したのはもう慣れだったのだろうか
その後、お決まりのようにカードゲームを挑まれて……敗北し、彼女の言い分を聞かざるを得ない状況に追い込まれてしまった。我ながら、懲りないというか学ばないというか
あそこで断固突っぱねていれば、彼女の機嫌を損ねることにはなったのかもしれないがこの状況は回避できたのか
そんな事を思いながら、すぅっと………久しぶり過ぎる煙を、吸いこむ
「………………」
教え子の前で煙草を吸うなんて。しかも、相手はアスリートだ。煙草はタブーといってもいい
こんなこと、少し前まで想像もしなかった
だけど、煙草を吸う、という行為は極めてシンプルなもので
俺は別に、煙を輪にしたりとかの奇を衒ったような行為もできないし。見てて面白いものでもないと思うけど「どうした。もっとちゃんとみせてくれよ」
その言葉に応えるようにして、もう一度深く煙を吸い込む
それを口に溜めて、肺に入れて………吐き出す。それだけの、動作なのに
「………ッ」
視界がくらりと歪む。というより、体が一瞬ふらつく
久しく煙草を吸っていなかったせいで……所謂、ヤニくらというやつだ。気分が悪くなるほどではないが、嫌な感覚
「いや、大丈夫だ。久々の煙草ってのは、こういうもんだよ」灰を灰皿に落として、心配そうな彼女に大丈夫であることを伝える
久しぶりの煙の味は、想像よりもずっと懐かしかった。肺の中に浸透し、ニコチンが体に染みるような不健康な感覚
ふぅと煙を吐いて、もう一度フェスタの方を見る
ここまで興味津々なのはちょっと予想外だ。こんなもんか、とすぐに飽きてくれるかと思ったんだけど
「………なるほど、確かにあの時と同じ臭いだ」
「臭いだろ。もうそろそろ………」
「おいおい。まだ残ってるだろ。しっかり見せてくれよ」
………そんなに面白いのか、これは?
「安心しなって。自分じゃ手は出さないさ」
「あたりまえだっての」言いながら合間合間に吸い込んでいると、いつの間にか随分と短くなってきた
少し勿体無いが、ここで終いにさせてもらおう。灰皿に押し付けてしっかりと火を消して、と
「なんだ、もう終いか」
「もういいだろ、別に見ても面白いもんじゃないし」
「そうでもなかったぜ?」
ニヨニヨとそう言いながらこっちを見つめてるフェスタに、なんか照れともまた違う感じが湧き出てくる
なんだこれ、実際にじっと見られてると妙に恥ずかしいぞ
すると、彼女はすっと立ち上がり、こちらに寄ってきて
「………うん。嫌いじゃねえな」
どこか、恍惚としたような色を含んだ声
突然の色のある声に若干ドキッとしつつも、慌ててフェスタを引きはがす
「と、突然なにをするんだ」
「いや何。存外、悪くないと思ってね」
悪くない……それに該当するものを脳内で検索して、まさかと思いつく。いや、そんなまさか
「決めた。アンタ、健康には申し訳ないがたまにでいい。煙草、吸ってくれよ。自宅ででいいからさ」
「何を言って………」
「飲み屋の煙草の煙はともかく、アンタが吸ってるのは嫌いじゃないって事だ」
言いながら隙をついてまたシャツに顔を埋めてくる彼女に、今度は抵抗する術は無かった
すんすんと、わざと鼻を鳴らしているのか。無意識なのか
とにかく、今自分はいくつも年下の少女に執拗に臭いをかがれているわけで
「何、レースを頑張った褒美だと思ってくれればいい」
今、自分は何をされているんだ。頭が回らなくなってきた「ふぇ、フェスタ。そろそろ離れ………」
「おいおい、せっかくなんだ。もう少し堪能させろよ」
「堪能って………」
確かに、別にタバコを吸わせろと言われたわけでも、副流煙を吸い込んでいるわけでもない
だけど、頑張った褒美に体臭かがせろって……今までフェスタを担当してから突拍子もないことがたくさんあったけど、こんなことは流石に初めてだ
考えている間にも、フェスタは無自覚なのか尻尾を振りながら自分の体臭を……正確には、自分に付いた煙草の臭いを堪能している
別にそんなことはないのに、段々といやらしい空気を感じるというか
ただひたすらに、そう。恥ずかしくなってきた
「………フェスタ、もうそろそろ」
「ん………もう少し………」
俺は、『教え子のために煙草を吸う』という……一種異様な習慣を身に着けることになってしまったのだけど「………いい香りだ」
「嘘つけ………」
まぁ、これでよかった………のかどうか
オブラート。
何を言われるかと思ったら「どうやって嗅げたのか教えてくれ」だった
いや別にアイツの過去が知りたいとかそういうことでは無くて?ただ月に数回だけどうもヤニ臭いことがあるから弱み?を握る?為に突き止めておこうと思ってるだけさうん、アイツ何言っても『君のことを思えば応じられない』なんて小っ恥ずかしいセリフ公然と吐く面白い男だからよこのくらいの弱点握ったってバチは当たらねえっつーかハハハ……
純愛でもできそうではあるけどえっちにしない自信がないのでやっぱなしで
フジキセキがすでにエ□なのでどうやってもエ□になるのは仕方がない
素材の味だ
トれ吸い倶楽部に加入か?
現メンバー誰なんだ…
終身会長フジキセキ