「楽しんでくれたようなら何より。俺も楽しかったよ」
今日はトレーナーとパーマー号でデート(私が勝手にそう言ってるだけだけど)
久し振りにまとまった休みを取れたって言うから、ちょっと勇気を出して一緒にお出かけしたいって誘ったわけ。せっかくのお休みを潰しちゃ悪いかなって思ったけど、トレーナーはこうして私の誘いに応じてくれた。
二人して早起きして、いつもよりちょっと遠出した帰り道、欠伸を噛み殺しながら彼が言った。
「ごめんパーマー、ちょっと仮眠とってもいい?」
早起きしたからね、それに日頃の疲れかも?やっぱり無理させちゃったかな…
「いいよいいよ、気にしないで!安全運転してもらわないと私も困るし?しっかり休んでゆっくり帰ろ!」
「ありがとう、一時間くらいしたら起こして」
そう言い残して、トレーナーは直ぐ様すぅすぅと寝息を立て始めた。やっぱり疲れてたんだね。ごめん。
せめて安眠は守ろうとブランケットを取り出して彼に被せる。ふと、彼の横顔が目に入った。夕陽を受けて、薄らと照らされた彼。
そこまで考えて首を振った。大きく深呼吸して、思い留まる。いけない、安眠を守ろうと言ったのはどの口か。最低だ私…
「はぁ…違うこと考えよ…」
湧いた雑念と罪悪感から逃げるように、思考を別のものへと流そうとする。何がいいか…あ、そうだ。この前ライアンから借りた漫画!トレーナーとウマ娘の恋模様を描いた話題作!ちょうどいい所で次巻に続いちゃったから早く続きを借りたいんだよね。えーっと前回は確か……
「そうそう!トレーナー室で居眠りしちゃったトレーナーに担当の子がキスしようと顔を寄せるところで終わって…」
まるで今の私達みたいなシチュエーション。私は再度頭を振った。
私のバカ!何でこうタイミング悪いかな!ライアンもライアンだよ!随分過激な漫画を貸してくるね!?
──「えー、そうかな…?これくらい普通だと思うんだけど…」
──「ライアンの普通はどうなってるのさー、いくら好きな人相手でもこんなベタベタしないって」
──「でも事実は漫画よりも奇なりだよ。これ読んでみて」
そう言ってライアンが取り出したのは恋愛指南書。その名も“奥手な殿方も一発差し切り!恋のレースの極意" 書いたのはキングヘイローのお母さん。偉大な競走ウマ娘であると同時に、自身のトレーナーをオトして、それどころかその子どもを孕んでそのままレースに出走したという恋愛強者。そんなレジェンドの手練手管が記されたその本は恋愛指南書とは名ばかりで、先程の少女漫画が霞むような惚気、そして逆ぴょいスレスレの手法の数々が記載されていた。
──「ね、漫画の方が普通でしょ?」
──「これは特例というか…てか、何でこんな本持ってるの!?まさか試した?」
瞬間、ライアンの顔は真っ赤になり、伏し目がちに一言。
──「言わせないでよ…」
余計なことを思い出した。そう、あの純情乙女のメジロライアンはもういない。漫画より奇なりなリアルへと足を踏み入れてしまった。
「まさかあのライアンがねぇ…」
トレーナーをメジロ家に連れてきた時から怪しいとは思っていたが案外肉食系だったらしい。
「私にもそんな勇気があればなぁ…」
チラとすぅすぅ寝息を立てるトレーナーを見やる。……っていけないいけない!それはダメだから別のこと考えようとしてたんじゃん私!
危うく逆ぴょい面へと堕ちそうになった思考を慌てて別のことへと流す。えーとえーと……あ、そうだ!勉強のこと考えよう。ホントはあんまり考えたくないけど、こういう時は真面目なことを考えるに限る。てか今度の小テストマジでやばいし、またニシノ神さまやアイネスにお願いして勉強を教えてもらおっかな。
そうそう、前回の小テストは二人がかりで教えてもらって過去最高点を取れたんだっけ。
──「お役に立てたなら何よりなの」
──「困ったらまた頼ってくださいね。あっ…」
鞄を落としたフラワー。文具やら本が床に散らばる。その本の中に見覚えのある一冊。“奥手な殿方も一発差し切り!恋のレースの極意"
──「ニ…ニシノ神さま…?これって…?」
──「えっ?…あっ!いや、それは違くて…」
慌てて私から本をひったくると、顔を真っ赤にして俯く神。
──「えっ…何歳…えっ…?やったの…?えっ…?」
──「あーっ!フラワーちゃんもそれ読んでるの?」
混乱する私にお構い無しに、アイネスも懐から同じ本を取り出した。何で持ってるの…?
──「アイネスさんも…!?そうなんです…トレーナーさんと一緒になるの…私は他の皆さんより大変そうですから…」
──「あー、歳の差あるもんね!アタシはただちょっと強めにトレーナーを可愛がりたくてヒントもらってるだけなんだけど、フラワーちゃんは切実なの…」
きゃいきゃいと盛り上がる二人についていけない。
──「え、でも歳の差とか…」
──「あはは、パーマーさん。流石にまだ実践はしてませんよ。でも、いつかは。それまではこの本から知識と勇気をもらえたらなって」
──「この本はね、立場とか歳の差とか、そういうことで二の足を踏んじゃう子達の背中も押してくれるの!好きなら行動に移しなさいって」
「ふー…」
また余計なことを思い出した。フラワーちゃんはまだと言ってたけどあの様子だとほんのキッカケさえあればすぐにでも実行に移す気がする。アイネスはもう手遅れだろう。
「好きなら行動に移せ、か…」
チラ、とトレーナーを見やる。って、ダメダメ!また私は邪なことを考えて!
さっきから思い出す内容が尽くそういう話題に結び付く気がする。まるで私がそういうこと望んでるみたいじゃん。
えっちなことを思考から追い出すには、身内のことを思い浮かべると良いという。……ライアンでは失敗しちゃったけど、人選さえ間違えなければ。つまり……
──「美味しいですわー!幸せですわー!」
美味しそうにスイーツを頬張るマックイーンを思い浮かべた。うむ、正に色気より食い気。この分なら余計なことを考えずに済みそう。
しかし、幸せそうにパクパクするマックイーンを暫く妄想して、ふとこんな疑問が湧いてきた。
“マックイーンがここまでテンション上げてスイーツを食べるシチュエーションって何だろう?"
マックイーンは無類の甘いもの好き。それは間違いない。でも、彼女なりに自制はするし人前ではそういう素振りは隠そうという努力も一応はする。なのにこのテンションの上がり様…何か他に付加価値があるとしか思えない。
既に余計なことを考えて深みに嵌っていることに気付かない私はマックイーンがよく口にする言葉を思い出した。
すると、さっきまでパクパクとスイーツを頬張ってたマックイーンの様子が変わってきた。一人で食べているのではなく、彼女のトレーナーさんとスイーツを食べている。たまにはアーンなんかもしてもらっちゃって…
──「マックイーン、そこクリームついてるぞ」
──「え、どこですの?」
──「ここ」(チュッ
──「もう、今夜は一心同体ですわね」
妄想の中のマックイーンと彼女のトレーナーさんが口元についたクリームをダシにしてキスしてそのまま一心同体になった…
初めては車の中より綺麗なシーツの上で彼に優しくされたいから逆ぴょいはパス。でも、キスくらいなら、ね?
グッと身を乗り出し、隣で眠る彼に顔を寄せる。あと少しで…
パチリ
「…?…おはようパーマー」
「…おはよう」
「おかげで随分休めたよ……何か近くない?」
「トレーナーの、バカ」
「何故に!?」
>奥手な殿方も一発差し切り!恋のレースの極意
これ強すぎるからナーフしろ
麗さん!?
真剣にレースに打ち込んだ結果人生を預け合うに足る伴侶が出来てるだけだよ
魔本かよ…
トレーナー側から一目惚れして駆け落ちまで行ったCBパパはレアケースなんだ
>学生と生徒っていう立場である以上
しれっとウマ娘同士でするな
わたくしのイメージがおかしいですわ
意味もなくテンション上げてパクパクしないと思われてるだけマシでは
……
パクパクはともかく減量中にスイパラ行ったのは解ってんだぞテメーッ!
我慢できないのはこの腹か!この腹だな!胸にはいかず脂肪ばっか溜め込みやがって!
お仕置きが必要だな…
そう言ってマックイーンのトレーナーは無理矢理…
だめだギャグに行ってもあの色ボケ饅頭は強すぎる
ホヤとか
これが母の背中よ
😭
でもトレセンの図書室にも置いてあるんだぞ?
これもう犯罪教唆で逮捕だろ
たぶんトレーナーが目を開けなくてもギリギリでヘタレてたと思いますよ