「時代を先取りし過ぎる」と何とも言えない評判があるサトノグループだが、戦いの場に赴くのはまだかまだかと焦り燻る若き優駿たちにとって良き存在となっている。
もしかしたら、本格化が遅れ大の仲良しであるキタサンブラックと同期として走れなかったサトノダイヤモンドの苦い経験がこのプロジェクトの根幹にあるのかもしれない。
……いや、関係ない邪推はレポートに書くべきではない。あるがままを評定していこう。
思いやりに長けた彼女を仰ぐ師が未だいない新人ウマ娘たちに充てたのは正解だった。
かつて彼女と公園に行った際、幼いウマ娘とのやりとりを見ていて相手の精神性に沿った回答をしていたのが印象に残っていたからだ。
最初は教員、生徒共に奇異の目で見られたが、メガドリームサポーターの盛況ぶりやゴドルフィンバルブ自身の人柄も相まって印象は瞬く間に好転していった。
彼女に付き添っていたおかげで「ゴドルフィンバルブさんのトレーナーさん」という呼ばれ方になったのは甘んじて受け入れよう……。
とにかく、ゴドルフィンバルブは出かける暇がないほどよく働いてくれている。
……そう、最近は彼女とお出かけをしていないのだ。此方の都合で頻度は多くなかったがこれだけ期間が空いたのは初めてだった。
彼女自身は多くのウマ娘と毎日のように触れ合って充実しているようで、家に帰ってきたときに嬉しそうにその日あった出来事を話してくれる。
今の生活に満足しているのは嬉しいのだが、出会った日にした約束の事を思い出すとそれだけじゃいけないという気持ちに駆られた。
「あら、担当ちゃんのトレーニングを見てほしいとか?」
"いや、最近出かけてないなと……"
「もしかしてデートのお誘い?……あ、ならトレーナーさんが行先を決めてくれないかしら」
"任せてください"
彼女にからかわれるのも慣れたもので、冗談を流されたゴドルフィンバルブは頬を膨らませてむくれていた。
そういえば、サトノのウマ娘達に見つかったときに行きそびれていた場所のことを思い出した。うん、そこにしよう。
電車とバスを経由してたどり着いたのは海沿いにある水族館だった。
彼女を生み出す際に海がモチーフのひとつとして組み込まれた話を聞いて、海にまつわるスポットと考えてここになった。
「んー、VRと違ってやっぱり実物はイキイキとしてていいわね〜」
"そんなに違うものですか"
「VRで再現された生き物ってみんな完全な形をしたものばかりだから、生きてるとはあまり感じられないわね」
「ほら、あそこの大きな魚。尾びれが千切れてて群れの他の子より短いでしょ?VRじゃああいう生きた証は生み出せないわ」
展示の目玉である大きな水槽を二人で眺めながら言葉を交わす。最初は漠然と綺麗だなという感想しか浮かばなかったが、言われて目を凝らしてみれば少なからずそういった個性を持った魚たちが目に留まった。
尾びれが短い者、鱗が取れてしまっている者、鼻面が擦れて白くなっている者……なんだか学園の生徒達のことが思い浮かんだ。
「こーら、仕事のこと考えてる顔してるわよ?」
"……バレましたか"
「もう、せっかくの休日なんだから羽を伸ばさなきゃ」
その光景はとても神秘的で、まさしく女神そのものに見えた。
「トレーナーさーん、撮影お願いねー」
返事代わりに頷いてゴーグルの淵にある撮影ボタンをタッチ。元々トレーニングやゴーストとのレースを記録するための機能だが女神に促されては仕方がない。
他の女神達も娯楽に関する記録を収集していると聞いているし、無駄にはならないはず。
それに、モニターとしての役割が終わればゴドルフィンバルブは好きに出かけられるかもわからないのだ、今日は沢山記録を録るとしよう。
遊びに遊んで時刻は夕暮れ時、彼女の希望で水族館近くの砂浜まで足を伸ばしていた。
そこまで大きな水族館ではなかったが、昼前に来てこの時間まで居たのだから十二分に堪能できたと言えるだろう。
今は何をするでもなく二人で砂の上に座ってただ海を眺めている。穏やかな波の音と潮風が心地いい。
「今日は楽しかったわー、こんなにはしゃいだのは初めてかも」
"色々と珍しいことばかりでしたね"
「ちょっと、それってイルカショーのときのこと言ってるのかしら?」
定期的に行われるイルカショーでたまたま最前列を確保出来たものの、当然その席は水しぶきを受けやすい場所だった。
案の定イルカの動きで出来た波が水槽を飛び越えてモロに来た時に彼女は悲鳴を上げていた。本体は防水仕様だし、仮想の身体が濡れるわけがないのだが……。
それが面白くて、自分がずぶ濡れになっているにも関わらず笑ってしまい、彼女も彼女で驚いたところを見られたとハッとして恥ずかしそうにしていた。
"その時は看病してください"
「イヤでーす」
"そんな……!"
少なくとも風邪を引きそうな素振りはないが、もし引いてしまっても彼女は看病してくれる。
そういう信頼の元での会話、打てば響くとはこういうことか。悪くないなと思っていると彼女が真剣な面持ちでこちらを見ている。
「実は私、海ってそんなに好きじゃないんです」
"え……"
「ああ安心して、水族館は楽しかったし海を眺めてるのも好きだから」
「……ゴドルフィンバルブは、留学の為に海を渡って新しいトレーナーのいる大陸を目指すんです」
「だけど、昔の船旅は今ほど楽じゃなかった。安全にたどり着けるかも分からないし、旅が長くなるほどまともな食事が取れなくなっていく」
「やっとのことで着いてみれば、話に聞いていたような姿とはかけ離れた痩せこけた身体になっていたそうです」
「こんな姿ではもしかしたら失望されてしまうんじゃないかと心配していた彼女だったけど、新しいトレーナーさんは温かく迎えてくれた」
「海の上で夢見ていた新しい環境に彼女は巡り合えたの」
ふう、と一息ついて話を終える彼女。その瞳は水平線の向こうまで見渡すような澄んだものだった。
"なんで、海だったんでしょうね"
「多分、穏やかでありたかったんじゃないかしら」
「荒れた海を経験したから、他のウマ娘にはそういう思いはしてほしくなかった」
「そして海の向こうにあるものは素晴らしい物なんだって伝えたかったのかもね」
靴を脱ぎ捨て、濡れた砂の上を駆けて足跡を残していく。何か違和感を覚えてゴーグルを取って足跡を肉眼で見ようとしたが、その場所は既に波に攫われていた。
「ほらー、トレーナーさんも遊びましょうよー」
イヤホンから彼女の呼ぶ声が聞こえる。苦笑してゴーグルをつけ直し、自分も靴を脱いで海へ駆けだした。
たとえ記録が消えたとしても、今日の記憶は忘れられそうにない。
このアイディアは、担当ウマ娘とのトレーニングに活かせるかもしれない!
担当ウマ娘の成長につながった!
やる気が上がった
体力が60回復した
スピードが25上がった
賢さが25上がった
スキルPtが30上がった
「大海の叡智」のスキルLvが3上がった
ゴドルフィンバルブの絆ゲージは満タンだ
次でラストです
波でよくわかんなくなっちゃったしARかもね!まあいっか!
今度は忘れないでねっていった娘もおるじゃろ
何で足跡付くんです…?