【ウマ娘怪文書】凱旋門賞……それはレースの関係者なら誰もが一目置く最高峰のレースの一つだ　この国からも数多のウマ娘が頂に手を伸ばしてきたが、その悉くが高い壁に阻まれている

凱旋門賞……それはレースの関係者なら誰もが一目置く最高峰のレースの一つだ
この国からも数多のウマ娘が頂に手を伸ばしてきたが、その悉くが高い壁に阻まれている
中でも特に高く、厚く、幾重にも立ちはだかるのが予算の壁。資金繰りもチーム全体で取り組むべき課題だ
「それではニシノフラワーさん。最初の質問ですが……」
「はっ……はい……っ！」
「すみません。この子ちょっと人見知りなので」
巨漢の記者の視界から逃れるように小学生くらいのウマ娘が俺の背後に隠れた
彼女はニシノフラワー。こう見えてトゥインクルシリーズで活躍する俺の担当ウマ娘だ
この日の取材は彼女が夢を託すに値する優駿であると世間に知らしめるのが目的なのだが……
「ほらフラワー。ファンの皆さんに答えると思って」
「……しっ、書面でご用意、いたしましたっ！……どうぞ……！」
「っとと。これはご丁寧に……トレーナーさんにもお伺いしてよろしいでしょうか？」
「お手間をとらせてしまい申し訳ございません。ほら、フラワーも座って」
瞬く間に封筒を手渡して隠れようとするフラワーを俺は隣に座らせた
飛び級の天才児と知られる彼女の欠点。それがこの人見知りだ

相手が生徒なら『あの』スイープトウショウでもあだ名で呼ぶくらい打ち解けたりするが異性や大人相手だと緊張してしまうとのこと
その反動か担当トレーナーの俺にはある程度心を許しており、歳の離れた兄妹と揶揄されることもある
俺の妹がこんなに可愛いわけがないでしょう……口には出さず愛想笑いで巨漢の記者を見送ると、今度は女性の記者が現れた
「ご無沙汰しています、お二人とも」
「いえいえこちらこそ……ほら、フラワー」
「……に、日本ダービーの記事……ありがとうございました」
「お礼を言うのはこちらの方です。おみそれしました、ダービーウマ娘さん」
この記者は日本ダービー参戦前に取材をしてくれたことがあり、フラワーも面識がある
彼女には乙名史記者のような圧もないため隠れることはなく取材に応じていた
「それでダービートレーナーさん。今回の勝利の決め手は？」
「慣れませんねそれ……フラワーが頑張ってくれただけですから」
「それも勿論ですが、昨年まで不安視されていた距離適性を伸ばした件について詳しく」
「それは……っ？」
記者との会話中、不意に生じた僅かな違和感
その正体は机の下で服の裾を掴むフラワーであった

「どうかなさいましたか？」
「いえ、何も。距離適性の延長は当該プロジェクトの一環で……」
取材に慣れた記者は主要な質問を俺に振ることが多いのだが、その際ごく稀にこういう行動に出ることがある
俺は机のタブレット端末を操作して記者の視線を誘導し、その隙にもう片方の手でフラワーの手を包んだ
「……というメニューをこなし、クラシックディスタンスへの適応を促しています」
「なるほど……しかし、これは……」
「お察しの通り、これを続ければ彼女の短距離での適性を損なう可能性もあるでしょう
しかし凱旋門賞とはそれ程の覚悟なくして挑めるものではないと我々は認識しております」
「その覚悟の一端が日本ダービーですか……ニシノフラワーさんも、その覚悟をお持ちですか？」
「はい」
記者の問いかけから間を置かず、この日一番に淀みない回答が響いた
幼いながら、あるいは幼いがゆえの純粋な覚悟が彼女にはある
「私たちが優勝して、凱旋門賞のトロフィーを捧げます！」
高い壁を乗り越えた者の言葉は多くのサポーターの心を掴み、支援という力に変わるだろう
その栄光を誰に捧げるのか……フラワーは言葉にはせず、俺の手を握り返した

自分だけに心を許してる人見知り天才少女とか子供好きには刺激が強すぎるだろ…

よからぬことというか気持ちのよいことはしてる

フランスなら合法