「ねぇーシュヴァちー、この後一緒に初詣行かないー?」
「ごめん、実はこの後トレーナーさんと出かける予定があって…」
「えー!?そんなー!?許すまじシュヴァちのトレーナー…!」
「こら、シュヴァルにはシュヴァルの予定があるんだから。ワガママ言って困らせないの」
「ごめんよ…その…埋め合わせは必ずするから…」
〜〜〜
と、ヴィブロスを窘めたものの、あの子の気持ちもよく分かる。私だって、久方ぶりに三姉妹で過ごせると思っていたのだから。可愛い可愛い妹を横取りされた気分。
シュヴァルがデビューして3年。彼はいついかなる時もあの子を支えてくれた。引っ込み思案で自分に自信が持てずにいたあの子も、以前よりは前向きで、自分を表現することを覚えた気がする。そこは本当に感謝しているの。感謝しているけれど、それとこれとは話が別よ。別なのよ!!!
シュヴァルもシュヴァルよ。私だってトレセン所属のウマ娘。尽くしてくれるトレーナーに心奪われるのは覚えがあるし理解出来る。でもだからってせっかくの三姉妹揃っての初詣を蹴るなんて…!くぅ…
……トレーナーさんとは出かけるのに?おのれぇ…シュヴァルのトレーナーさん…許すまじ…!
ふと、顔を上げるといつの間にかシュヴァルの部屋の前にいた。扉は開けっ放しで、急いで出かけて行ったのがうかがえる。
──帰ってきたばかりなのに、本当にあの人に首ったけなのね…
どうしようもなく寂しさに襲われる。
開けっ放しの部屋を見ると、荷物が詰め込まれているであろうスーツケースが、デンとそのまま、開けられることなく放置されていた。
「荷物の整理もしないで…まったく…」
その時、魔が差した。この荷物を私が整理したらあの子はどんな顔をするだろう、と。あの子も年頃。姉とはいえ自分以外に荷物を開けられるのは良い気持ちがしないでしょう。でもやるべき事をほっぽり出して遊びに行くあの子が悪いのよ!恨むなら無防備に荷物置きっぱなしにした自分を恨むことね!
「そーれご開帳」
勢いよく開けた。
“奥手な殿方も一発差し切り!恋のレースの極意"
パタン。
開けたスーツケースをつい閉めてしまった。今何か見えてはいけないものが見えたような…っていけないいけない。あの子の荷物を整理するんでしょ。差し切りとか見えた気がするしきっとレースの本よ。あの子先行主体とはいえ差しもやれるし。
気を取り直して再度開ける。
“奥手な殿方も一発差し切り!恋のレースの極意"
見間違いじゃなかった…
私の前にあるこの本。これはトレセン学園で流行っているという恋愛指南書。書いた人はキングヘイローさんのお母様。偉大な成績を残したウマ娘でもあるが、自身のトレーナーを逆ぴょいした挙句お腹に子を宿したままレースに出たという問題児でもある方。そんな方の本をシュヴァルが持っているなんて…!真面目なタルマエさんがたまに夜中に起き出してこの本真剣に読んでるのも結構ショック受けたのに!
1.何も見なかったことにして部屋から去る
2.シュヴァルにこれは何かと言及する
3.素知らぬ顔をして整頓を続行。この本もちゃんと本棚に並べておく
私としては整頓はしたい。やはりここは3を選ぶべきか…
「待ちなさい」
…その声は厳格な私!
「整頓だけやってお終いだなんて正気?この本をシュヴァルが持っているという事実、あの子が何を目論んでいるか、察せない貴方ではないでしょう?」
それってつまり、シュヴァルは…
「そう、逆ぴょいする気よ。あのトレーナーさんを。逆ぴょいは恋に悩むウマ娘達が強引に関係を進めるための有効打。でも、メリットばかりじゃないわ。強引に関係を迫って断られた時、その心的ダメージは計り知れないのよ…!」
…!
「逆ぴょいの極意、それは双方の同意にある。本気で拒絶された時の逆ぴょいは逆ぴょいとは言わないわ。ハイリスクハイリターン、だからこそ逆ぴょいは最終手段と言われているのよ。そして何より許せないのが、そんな最終手段を取らせる程あの子を追い詰めたトレーナーさん!」
落ち着いて私…
「落ち着けるわけないでしょう!選ぶべきは2よ!シュヴァルに聞いて、あの子が危険な選択をする前に止めるのよ!そしてその後あの朴念仁を蹴っ飛ばす!これしかないわ!」
『待ちなさい』
…その声は過保護な私!
『焦ってはいけないわ。そもそもあの子が本当に逆ぴょいをすると決まったわけではないでしょ』
それは…確かに…
『3年間のレース生活で変わったとはいえ、あの子はまだまだ引っ込み思案。好きな人相手にいきなりそんな大それたこと出来るかしら?』
でも、もしものことがあったら…
『えぇ。あの子を守りたいのは私も同じ。でも出来ることならあの子を傷付けない方法を選びたい。だから選択肢を選ぶ前に、この本を確認しましょう。少し読んでみて、あの子が逆ぴょいを実行に移す危険性があるのなら、その時は止めればいいわ。トレーナーさんを蹴っ飛ばすのはその後でも遅くない』
>ファルコンされたり(鈍感だったの意)
応援
ありがとー☆
そんな逡巡の末、私はこの本を少し読んでみることにした。適当なページを開く。
──まずは奥手な相手でも思わず目が釘付けになるような格好をしてみることです。これは何も露出の高い服を着るべきと言っているわけではありません。チアリーダーのようなへそ出しルックを好む殿方もいれば女児服のようなパステルカラーを着ていることに興奮を覚える殿方もいます。相手の好きな身体の部位を強調するのも良い手でしょう。好みを見極めることが肝要です。ちなみに私は太ももを強調したスリットの深いチャイナ服を選びました。
最後のは聞いてないわよ
そんなツッコミを飲み込んで少し考える。相手の好きな格好をするというのは、何も逆ぴょいに限らず恋においては一つの手段だろう。
「何だ、案外普通のことが書いてあるじゃな、い…?」
その時、気付いた。開きっぱなしにしたスーツケース。その端に、何やら見慣れぬ布生地が顔を覗かせているのに。妹達の持つ衣類はおおよそ把握している。それにシュヴァルは好んで新しい服を買いに行く性格でもない。恐る恐る、その布を引っ張り出してみる。
「『有罪!蹴っ飛ばすわよ!』」
脳内でそんな警笛が聞こえた。確かにこれは見過ごせない。即刻シュヴァルに確認しなくては。
「姉さん…?僕の部屋で何を…?」
「あ…」
気が付くと後ろにシュヴァルがいた。
「シュヴァル?どうかしたのか?」
「いや、何か僕の部屋に姉さんがいて…」
しかもトレーナーさんを引き連れて。もしや今からこの部屋でおっぱじめる気だったの!?
「あー!ね、姉さんそれ…!」
「どうしたシュヴァル大きな声出して…うお、えっぐいチャイナ服…」
当然ながら、シュヴァル達は私が手に持っているチャイナ服に気付いた。どうしよう、シュヴァルを傷付けないようにトレーナーさんを蹴っ飛ばすとか考えてたのに状況は最悪じゃない…!
「あ、えと、あの、そ、そう!それは姉さんにプレゼントしようと思って!」
「シュヴァル!?」
私に押し付けようというの!?
「そう、このえっぐいヤツをです!ね、姉さんってその、恋に奥手で!自分のトレーナーさんのこと好きなのにいつまで経っても行動しなくてだから背中を押せたらなって!」
押し付けるだけじゃなく好き放題言って!流石に可愛い妹と言えど看過出来ない!
「ちょっとシュヴァル!私とあの人はそんなんじゃ…」
その時、私は見逃さなかった。わたわたとどうにか誤魔化そうとするシュヴァルが一瞬こちらに向けた目。その目が強く訴えかけてきた。“姉さん助けて"と。
…思えば、この子の鞄を勝手に開けた私に非がある。それに、だ。
「『助けを求める妹を無視して何がお姉ちゃんか!』」
覚悟は決まった。
「そ、そうなんですよ。私ったら奥手で、あの人に中々想いを伝えられなくてぇ。それがこの子を心配させちゃったみたいですねぇ」
「…!そ、そうなんですよ!僕姉さんが心配で!」
「お姉さん想いなんだな。ん、この本は…」
「あー!それも僕からのプレゼントで!最近巷で話題の恋愛指南書でしてー!」
「なるほど。だがこれはトレーナー間では危険視されてる本でな、流石に見過ごすわけにはいかない」
「いくら好き合ってても急に襲われたらビックリしちゃうからな。好きなら時間をかけて段階を踏んでもらいたいものだ」
「そそそそそうですよね!あはは、そんな本だったなんて知らなかったなー!」
めちゃくちゃ目が泳いでるわよシュヴァル…
「とはいえ乗りかかった船だ。この本は没収させてもらうけど、どうにかお姉さんの恋路を応援したい。ちょうどお姉さんのトレーナーとはそこそこに面識がある。2人のデートの場をセッティングしてみよう」
「わ、わあトレーナーさん頼りになるなー!そ、そうだ!こういうのは早い方がいいと思います!」
「そうだな!ちょっと電話かけてくるよ!」
部屋から出ていくシュヴァルのトレーナーさんを見送って、ほっと一息。その後ボソリと呟いた涙声の「姉さんありがとう…」だけで全部許せたわ。後日行った私のトレーナーさんとのディナーも楽しかったしね。
どちらかというと僕に出来たんだから姉さんは当然それ以上進んでるよね?って当然のように言われる姿が見たい
でもよく見るとトレーナー間での話だぞ
極限まで思い詰めた陰キャは時に想像もしない斜め上の勇気を発揮するから…
キングの仕送り逆ぴょいの印税
積ん読してるスカイさんに言われたくないわよー😭
しんえいたいさんみたいな顔とポーズしてるなと思う時がある
比較対象がイメ損もいいとこだわ
その先どうしたらいいか治し着なさすぎてヴィルトレの上に股がったままキング母本見ながらはじめての料理みたいなぎこちなさで始めると思うけど貴様らは?
貴様!?
大変いいと思うが実装まで待つ所存だ!