「おいおい、あんまり呑みすぎるなよビリーヴ」
「んんぅ……大丈夫です……自分の許容量わかってますから……」
「そうか……?」
ビリーヴがグラスにあけたお酒を飲み干す。時は夜頃自宅にて、俺とビリーヴはささやかな飲み会を開いていた。担当とトレーナーだった俺たちが、今や同じチームのトレーナーとサブトレーナーとして、あるいは先輩と後輩として、あるいはもっと深い関係として、こうして二人で呑むことができるようになるとは。あの頃は想像もしていなかったが、しかし随分と時は流れたものだ。
互いに持ち寄った肴をつまみ、思い思いに酒を呑む。最初は度数の低い甘めの酒を呑んでいたビリーヴも、宴もたけなわともなれば日本酒をいくつも空けていき、俺は俺で缶ビールを何本も空にしていった。
「……あ、また空になった……次のお酒……」
「ビリーヴーあんまり呑みすぎると明日に響くぞ〜」
「僕はまだ大丈夫です、だいじょうぶまだ呑めます……」
「それ酔っ払いのセリフだぞ〜」
「だいじょうぶです、まだ呑めますからぁ……」
「ぅぁ……トレーナーさん、おかわりくださいー……」
「もうだめー、ビリーヴ呑みすぎだからぁ」
「だいじょうぶです、だいじょうぶですからー」
ぐだぐだと、お酒を取り合うビリーヴと俺。
「うぅー、一本だけ……あと一本だけですから」
「ホントにかー……? じゃあ一本だけだぞー」
そうしてカシュっと缶を開けると、ビリーヴに手渡してやる。
「えへへ……こくこくこく……」
顔を赤くしたビリーヴが、嬉しそうに楽しげにチューハイ缶を呑んでいく。その飲む勢いは止まらずに、飲み干す勢いで呑んでいくとやがて、やけに軽い音を立てて缶がその手から離れ転がり落ちる。
「けふ……」
「ちょい、ちょい……ビリーヴそんな一気に呑んでだいじょうぶか……?」
「んんぅー……だいじょーぶです」
虚ろな瞳でじーっとこちらを見てくるビリーヴ。そんなビリーヴが心配になり、立ち上がってビリーヴのそばに寄ると……。
すく、と……ビリーヴが立ち上がる。そうして、こちらにゆらりゆらりと近づいてくる。
「えっ、ちょ……どうしたビリーヴ……?」「トレーナーさーん〜」
押し込まれるようにビリーヴに迫られ、ベッドの辺りまで後ろずさりしていると、ビリーヴはうぅとすこしうなり顔を俯かせる。
「ぇっと……ビリーヴ、だいじょうぶか……?」「……トレーナーさんぅ……」
そうして、しばらくふらふらとしていたと思っていたらビリーヴは、急にくっとその動きを止め静かになる。
「……ビリーヴ……?」「…………」
どうかしたのか、心配になってその顔を伺おうとした、その時。ビリーヴはすくっと顔を上げ、そうして――。
「……トレーナーさ〜ん、ど〜ん♪」「おわぁ」
かわいらしい笑顔を向けたビリーヴに、どーんと押し倒される。
「えへへ……とれーなーさん……♪」
「うわちょ……ビリーヴ……!?」
胸元を抑え込まれ、ベッドに押し付けられる。倒れた先がベッドだったおかげで痛みは無いが、突然のことで驚いたのも事実。いったい全体どうしたのだと思いつつ、どうにか起き上がろうとするが――。
人間がウマ娘に勝てるわけがないという言葉が脳裏によぎる程、しっかりとビリーヴに押さえつけられた身体は、まったくと言っていい程に動かなかった。
「んんぅ、トレーナーさんぅ……♪」
ぐりぐり、と。胸元にビリーヴが顔を押し付けてくる。それからぎゅぅ、とビリーヴが抱きついてきて二人の身体が密着する。
「び、ビリーヴ……! なにしてるの」「トレーナーさんをたんのうしてます」
ぐりぐりぐり、顔を押し付けるビリーヴ。
「んんぅ、ぎゅ〜〜〜……すき、トレーナーさんすき……♪」
思いっきり抱きつかれ、ビリーヴから好意を伝えられる。
「すき、すき……トレーナーさん、すき……」「ぅぁビリーヴ」「ぎゅーーぅっ」
耳と尻尾をパタパタさせて、抱きつくビリーヴ。なんとも可愛らしい姿ではあるが、流石にちゃんと引き剥がさないとマズい気がする、色々と。
「ちょちょ、一旦はなれてビリーヴ」
「……なんで」「え……?」
「とれーなーさんと離れたくないです……僕のことキライになったんですか……?」「いや、ちょっ……!?」
「とれーなーさん、とれーなーさん……! ぼくのこと、キライになっちゃったんですかぁ……っ」
「ぁ、いや……! その……!」
「……えっと……その、好きだぞ……ビリーヴ」「…………もっと」「……え……?」
じぃっと、見つめてくるビリーヴ。
「もっと、言ってください……」「ぇっ……えっと、すきだ、ビリーヴ……?」
「もっと……っ」「す、すき……好きだ、ビリーヴ」
「もっと言ってくださいっ……!」「……あぁ、もう、好きだっ! ビリーヴ好きだ!! 愛してるぞビリーヴ!!」
「……えへ、えへへ……♪」
やけっぱちになってビリーヴに愛を告げると、ビリーヴは顔を更に赤くしてにへらと笑う。
「んん……♡ とれーなーさん、すき……♪」「あ、ありがとうビリーヴ」
「ん、ちゅーっ……♪」
「ぅぁ、ちょビリーヴ……!?」「んん〜……♪ ちゅー……♡」
ちゅ、ちゅぅ。ちゅーっと。ビリーヴが何度も何度もキスをする。普段のビリーヴならこんなにやたらめったらにキスなんてしない……けど、今のビリーヴは正体を失っていて。
「ちゅー……♪ ちゅっ、ちゅぅ……♡」
終わらないキスの雨。ビリーヴの瞳以上にとろけだす自分のあたま。……もう、なんだかどうなってもいいや、と。俺は思考を放棄し始めて、そして――。
「ちゅーう……♪」「……ちゅ」
「……♡ とれーなーさん、ちゅー……♪」「ちゅー……ぅ……!」
――そうして、俺とビリーヴは酔いが回って意識を失うまで、終わることの無い口づけの応酬に溺れていくのであった……。
――――
――次の日。
「……今日のトレーニング方針はこんな感じだ。…………えっと、その……ビリーヴの方からは、あの……あれだ、……えっと、どう……?」
「ぅぇ、ぁっ……いや、その……ぇっと……はい、大丈夫……です……」
「なにかあったのかしら二人……?」
「ぎこちなくない?」
「昨日絶対なんかあったって」
「顔真っ赤で推せる〜」
「……い、いいからトレーニング始めろ!!」
『は〜い』
コースへと走る担当たち。取り残された俺とビリーヴ。なんとも気まずい空気の中、俺はそっと口を開く……。
「……その、昨日のことは。お互い、無かったことに……」
「……は、はい……その……お願いします……」
そう言ってみたは良いものの、止むことのないこの気まずさは、二日酔いで痛みつつも鮮明に残る昨日の記憶とともに、俺たち二人の間に重くのしかかるのであった――。
「…………ぁ、あぅ」
酔いどれビリーヴはたぶん絶対かわいい
どーん